自動車警ら隊(リクエスト)

□kiss mark
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刑事課でちょっとした騒動が起きたのは、午後7時。
今日は秋葉や梶原が所属する班が24時間勤務のシフトだった。
数日前に大塚署管内で起きた傷害事件の犯人が新宿に潜伏しているとの情報を受けて、数人の捜査員が新宿署に許可を取り向こうの管轄地域に入っていた。
「もー、笑った笑った」
影平がフロアに入ってくるなり、そう言いながら笑い転げている。
結局は情報自体がガセであり、わざわざ新宿署に頭を下げた割には何の収穫もなかったのだが。
出張っていた影平にとっては、何やら大収穫な出来事があったらしい。
留守番だった梶原と優は、書類から目を離してにぎやかなそちらを見た。
「これ、見てこれ!!」
一緒に出かけていた秋葉の顔を指差して、影平がまだ笑っている。
「もう、いいですって」
憮然とした秋葉は右の頬を隠すように手のひらで覆っていた。
「ばーか、こんな面白いことは皆で共有するもんだって!!」
影平は、秋葉の蹴りをものともせずに彼の右手を取り上げた。
くっきりと真っ赤なキスマーク。
「………うっわー」
思わず梶原が呟く。立花の目も点になった。
「オカマバーのママに気に入られちゃってこいつ!!抱きつかれて、ちゅーって!!ちゅーって!!!ぎゃはははははははは」
「うるっさいな!!」
影平の手を振り払い、秋葉は不機嫌に自席に戻る。
「それにしても、派手にやられましたね。くっきりつけられてますよ」
「何見てんだ、馬鹿」
横に座る梶原が自分を見ているのに気付き、秋葉はそこにあったファイルで梶原の頭をはたいた。
「いったー…八つ当たりだ」
頭を押さえて恨みがましく秋葉を見上げていると、更にもう一撃、思い切り椅子を蹴られてしまった。
「洗っても落ちねえ…これ」
ごしごしと右手の甲で頬を擦る秋葉は、今度は優と目が合う。
「……何だよ」
「それ…メイク落としじゃないと…無理よ多分」
気の毒そうにも、笑いをこらえているようにも見える表情で、優は言った。
「……お前、持ってないの?」
「あるけど?」
「貸して」
そう言われて優は、にんまりと笑った。
「あ、やっぱりいい。何か嫌な感じ。自分で買ってくる」
優の笑みに気付き、秋葉は目を逸らした。
「秋葉…それでコンビニまで行くつもり?」
「ぎゃははははは!!!ビミョー!!」
秋葉と立花のやりとりを聞いていた影平がまた笑い、秋葉は苦い顔をした。
「……貸して」
「人に物を頼むときは?」
秋葉は机に顔を伏せてうなる。
どうして自分がこんな目にあうのだろうかと思っているに違いない。
梶原は横でその姿を見ていて、少し気の毒に思えてきた。
「立花……さん……お願いです、メイク落とし貸してください…」
思いついた、最大限の丁寧語を使ってぼそっと呟く秋葉に、優がバッグの中から小さな洗顔料を取り出して放り投げた。
「ちゃんと泡立てて使いなさいよ」
「ありがとう…ございます……」
事の成り行きを見守っていた梶原は、それを受け取って立ち上がった秋葉と目が合う。
「何見てんだよ!!」
「…結構、秋葉さんてそっち系に好かれちゃうタイプなのかも……とか思って」
秋葉は無言で梶原の横を通り過ぎようとする。か、に見えたのだが、梶原の首に左腕を巻きつけ、椅子ごと床に引き倒した。
「いったー!!!ひどいですよ秋葉さん!!」
「梶原、墓穴!!」
影平の声に、秋葉が顔を上げる。
「あんたも覚えとけ。暇人」

その後、赤い口紅とキスマークの話題は禁句となった。

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