自動車警ら隊(リクエスト)

□広がる闇
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自分の足元を見てみろと

声がした

そこには
いつの間にか

引きずり込まれそうな
深い闇が広がっていた


(1)
「秋葉巡査部長」
低い声で呼ばれ、秋葉は意識を目の前の現実へ戻す。
大塚署の第3取調室。圧迫感のある狭苦しい部屋の中で。
秋葉は今、警視庁捜査一課の2人の刑事と向き合っていた。
「もう一度、聞く」
和田という警部にそう言われ、秋葉は内心で溜息をつく。
今朝7時から既に3時間、秋葉はこうしてこの場所で連続殺人事件の捜査本部から事情聴取を受けている。
相模の事件から約3ヶ月。季節は夏になっていた。
マンションから飛び降りて重症を負っていた相模も、取調べを受ける事が出来るほどには回復し、今この署内にいる。
厳密に言えば、隣の第4取調室に。
「相模に拉致された後の記憶はあるんだな?」
そう問われ、一体何度同じ話をさせるつもりなのだろうかと秋葉は一度目を閉じた。
時折傷口はまだ痛んだし、ひどく気分が悪かった。
それでも平然を装うのは、自分の個人的な意地で。
何一つ攻撃の材料を与えないつもりだった。刑事を続けるために。
「意識があった間は」
挑戦的な物言いになってしまうのは、自分でもどうしようも無かった。
朝から繰り返される同じ質問にいい加減うんざりしている。
今、壁一枚向こうにあの悪魔がいて。
相模の供述と、秋葉の供述が合致するかどうかを捜査一課は調べているのだ。
別々に聴取した2人の話を後から突き合わせて検証するのだろう。
自分自身も、刑事としてよくやる仕事だ。
「あの時銃の携行命令は出ていなかったので、私服捜査員は銃を所持していなかったな。防弾チョッキも。現場の野次馬の中に、相模がいて……あいつを追ったんだな?」
一番早くそれに反応したのが秋葉で。
恐らく相模もそれを見越していたのだろう。
「俺たちが聞きたいのは、その後だ」
「………撃たれるな、と思った時には……」
秋葉は呟き、その時の事を再び鮮明に思い出す。
避けるには間に合わなかった。周囲に人がいない事だけは確認できたが、左肩に熱を感じ、衝撃で身体が弾かれ路上に倒れた直後に意識が途切れていた。
受身を取る事も出来なかったので、アスファルトで頭を打ってしまったのかもしれない。
「次に気付いたら、あの部屋にいました」
「相模と何を話した?」
それを思い出そうとすると。
くらり、と秋葉の意識が揺れる。
早く言葉を発しなければと思えば思うほど、秋葉の思考にはブレーキがかかった。
突然、机を叩く大きな音が隣から聞こえる。
何事か相模の取調をしている捜査員が叫んでいる。
(………無駄だ…)
それをどこか遠くで聞きながら、秋葉はそう思った。
威圧も何も、あの男には通じない。
人の心を持たない人間の形をした悪魔だからだ。
ひどい吐き気がした。
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