公安第一課(裏?)

□kiss you
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24時間勤務は3日に一回やってくる。
その夜は、特に何も事件も無く。刑事課は、それぞれが交代で2時間ずつの仮眠を取っていた。午前2時。交代の時間になったので、梶原は廊下の奥にある相談室に向かった。
軽く2回ノックをして、静かにドアを開ける。
「秋葉さーん…」
4畳程の暗い部屋の中で、秋葉はソファに横たわっている。
「あれ?…起きない」
普段なら、ノックした時点で眠りの浅い秋葉は必ず目を覚まし、梶原がドアを開ける頃には起き上がっているくらいなのに。
(珍しいなー…)
そっと近寄って、しげしげと寝顔を見つめてみる。
(充電が切れたのかな)
以前秋葉が、充電が切れないと眠れないと言っていたことを思い浮かべながら、梶原は床に膝をつく。今夜は嫌な夢も見ていないのだろう。起こすのも気の毒だが、梶原にとっても貴重な仮眠時間だ。
「あ、き、ば、さんってば」
起きてください、と小声で呼んでみる。
「……起きない」
本当に珍しい。
「あれ?…息してる?」
不意に不安になり、梶原は秋葉に顔を近づけた。静かな、規則的な呼吸音。少し疲れた寝顔。
(秋葉さんて…体温、低そうだなあ…)
それはちょっとした出来心だった。
梶原は、秋葉の唇に自分の唇を重ねた。
(あ、やっぱり冷たい…)
「……梶原…?」
滅多に聞けない少し寝ぼけた声で、秋葉が梶原の名前を口にした。
(…やばっ)
ここで起きなくても。と思いつつ、梶原は秋葉から身体を離す。秋葉の意識が覚醒するまでに、しばらくの時間がかかった。
「………」
彼は無言で、自分の唇に指先を触れさせる。
「今の……何だ?」
問われて、梶原は正直に答えてしまう。
「キス…です…けど」
秋葉は言われた言葉の意味が分からないのか、若干不愉快そうに眉をしかめた。
「何で?」
「いや……ちょっと……してみたくなったん…で、すけど」
「……何で?」
梶原の答えに、みるみる秋葉の機嫌が悪くなっていく。部屋の空気の温度が、一気に下がった気がした。
「好き……だから?」
梶原の呟きと同時に、横たわったままの秋葉から、握り締められた右手が飛んできた。
そうそういつも殴られてばかりいるわけにはいかないと、反射的にそれをガードして、梶原はにこりと笑う。
しかし。
今度は秋葉の鋭い蹴りが脇腹にヒットした。この体制で、的確な足蹴りが繰り出せるのだから、なんだかんだ言っても、秋葉は身体を鍛えてはいるのだろう。
「うっわ…痛い……」
脇腹を押さえて呻く梶原を無視して秋葉は起き上がる。
「次は気絶させてやろうか」
「……ごめんなさい」
秋葉はやるといったらやる。梶原は上から見下ろされて素直に謝った。そのままドアを開け、部屋を出て行く秋葉を見送ってちょっと愚痴をこぼす。
「いーじゃないですか。減るもんじゃないのにー」
「何か言ったか」
「どこまで地獄耳なんですか!!!」
再び顔を覗かせた秋葉に、梶原は叫んだ。今夜は心拍数が上がりすぎて眠れそうにもない。
(全部、あんたのせいだ)

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