公安第一課(裏?)

□sweet sorrow
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人を、本気で殺したいと
思ったことがある。
死ねばいい、じゃなくて。
殺してやる、と。


『秋葉さんは、誰かを殺してやりたいって思ったことありますか』
馬鹿な事を聞いてしまったと、梶原は後悔していた。
腕の中で眠る秋葉を見つめて。
梶原の背中に回された手は、Tシャツを握り締めていた。
また、秋葉は嫌な夢を見ている。
最近は随分と悪夢を見る回数が減っていたし、秋葉が夜中に目を覚まして手を洗う事もほとんどなくなっていた。
だが今夜、秋葉を苦しめている悪夢の引き金を引いたのは自分だと、梶原は思った。
秋葉の肩が、弾かれたようにはねる。
こうして、何度も何度も。秋葉は死の疑似体験を繰り返す。
「………」
ようやく目を覚まして。
秋葉はまた、梶原の背中から離した手のひらを見つめる。
「秋葉さん、待って」
起き上がろうとする秋葉を、いつもなら好きにさせるのだが。今夜は抱きとめて自分の身体の下に押さえ込んだ。
「……血……が……」
梶原の肩を越えて天井に向けられる、虚ろな視線にも苦しげな言葉にも、今夜は気付かないフリをする。
「気持ち、悪……」
梶原は、懸命に押しのけようとする秋葉の手首を掴み、シーツに押し付けた。
「秋葉さん、俺を見て」
まだ秋葉の視線はゆらゆらとさ迷っている。
息を吸い込むだけで、うまく吐き出せずに。
「見て」
梶原は、右手だけを秋葉の左手首から離し、秋葉の視界を遮った。
「こっち、見て」
祈るように、呟く。一筋の涙が、秋葉の見開かれた両目から流れ落ちた。
「秋葉さん、ごめんなさい」
ゆっくりと焦点が梶原に合う。その時を待って、梶原は秋葉にそう言った。
「………ごめんなさい」
徐々に力が抜けていく手を引き寄せて、その指先に口付ける。
「………血はついてないですよ。血の味、しませんから」
身体を起こそうとする秋葉を今度は引き止めずに、梶原は自分の身体を秋葉の上から退けた。
しかし、秋葉は横たわったまま白い天井を見つめている。
「ほらね、大丈夫ですよ」
梶原は秋葉の唇に、自分の唇を重ねる。
「ごめんなさい、秋葉さん」
やがて、両腕で梶原の身体を抱き寄せた秋葉に。
梶原は何度もそう言った。


秋葉がかつて殺したかったのは。
恐らく彼自身だったのだと。
気がついたから。

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