公安第一課(裏?)

□心の在処
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愛情。

それは得体の知れない感情。
欲と欲とのぶつかり合い。
もしくはそれに似た、何か。

無感動な心に触れては
いちいち揺り動かそうとする
厄介な一途さ。

それが愛するという思念。



「何を考えてるんですか?」
「………いや……」
秋葉はいつものように背中を壁に預け、床に座っている。
ぼんやりと窓の外を眺め、夕刻になって激しく降り始めた雨を見つめていた。
雨は鬱陶しくてあまり好きではないが、雨上がりの空気は嫌いではない。
「………早く、雨が止まないかな……と思って」
雨が止んだら、外に出よう。と、秋葉は思っていた。
肺の中に溜まった、言いようのない重たい空気を入れ替えたかった。
梶原は、秋葉の隣に同じように座ってみる。
「秋葉さんにはこんなふうに、見えてるんですね」
ベランダに続く窓の、半分から上に小さく見える空。
今日は灰色の雲に覆われている。
「……お前、何で自分の部屋に帰んないんだ……」
今更な問いをしてしまう。また、自分は梶原を試そうとしている。
それが分かって、秋葉は苦い顔をした。
「………心配、だから?って答えじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「じゃあ、好きだから。好きな人と一緒にいたいのは基本ですよね?」
「そういうこと、言うな」
梶原がそう言う度に、何処かが痛い。
秋葉は床に転がり、その場所を探す。
「……痛……」
「何処が?」
心配そうに梶原は秋葉の傍らで、顔を覗き込む。
「………」
しばらく秋葉は梶原を見つめていたが、ふと視線を反対に逸らした。
梶原は手を伸ばして、手のひらで秋葉の胸に触れる。
「……心?」
時々、彼は無邪気に核心を突いてくる。
「………うるさい」
「心が、痛いんですか?」
秋葉の呟きに、梶原が重ねてそう問う。
秋葉は右腕で顔を覆った。
「お前がそんな事言う度に、訳が分かんなくなるんだよ」
自分の何処かが乱される。
「……頭は考える場所…ですよね。理性が制圧してる場所」
梶原は秋葉の胸から手を離して、その黒い髪を撫でてやる。
「……心って臓器はないけど…」
そう言いながら、秋葉が顔を覆ったままの右腕をゆっくりと取った。
「多分、この辺に心があって」
秋葉の手を、彼自身の胸の上に。ちょうど心臓の上辺りに置いてやる。
「ここに理性では片付けられない感情があるのかな…とか思ってるんですけど」
微かに手のひらに伝わる鼓動。生きている証拠。
「理性と感情があって『人』、でしょ?」
「……お前、ほんとに時々難しい事言うよな」
秋葉は笑う。
「難しくないですよ。すっごくシンプルな事でしょ?……俺が、秋葉さんを好きっていう事は」
だから、その心に触れさせて欲しいと願う。
「何処が………痛い、ですか?」
黙ったままの秋葉は、そっと指先で自分の胸を叩いた。
「………じゃあ、そこに心があるんですよ、きっと」

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