公安第一課(裏?)

□生まれた日のことを
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もしも自分の存在が
崩れそうなほどに
不安定なものならば

思い出してみればいい

生まれた日のことを



「最近実家帰ってます?」
唐突に梶原が秋葉に問う。
秋葉は呆れたように溜息をついて見せた。
「んなわけないだろ。最近俺の非番は、ほとんどお前に取られてるっていうのに……」
別に行きたい所があるわけでもなく、言うほど迷惑を被っているわけではないが。
梶原は、最近頻繁にこの部屋に入り浸っている。
「いつから帰ってないんですか?」
「さあ……いちいち覚えてない。そんなこと」
秋葉は顔をしかめた。なるべく家族の話はしたくない、という主張の表れだ。
「向こうも俺に会わないほうがいいよ、多分」
事情が事情だけに。秋葉は長い間、家族と一定の距離を置いているのだろう。
そう思うと、梶原は少し切なくなる。
秋葉は、家族と共有した思い出も、何もかもを一度失った。
それを取り戻したかどうかも定かではない。
それ以上に、秋葉と家族の間には埋めようもない溝があるのかもしれない。
秋葉はいつものように床に座り、気の無い様子で雑誌をめくっている。
ぱらり、というその音だけが、部屋の中に妙に大きく響いた。
「………時々…思う。俺は生きててよかったのかなって」
決して死にたいというわけではなく。自分の命に確信が持てない。
「あの人たちは、俺を許さないだろうって」
自分とは直接関係ない世間話をするように、秋葉は呟く。
「あーきばさんってば」
梶原は、胸に溜まった空気を吐き出すように笑う。
そして秋葉の後ろに座り、その身体を両腕で抱き締めた。
こんな時は、きっと秋葉は自分の表情を見られたくないだろうから。
それでも、このまま彼を独りで置いておくことができずに、梶原はこうして秋葉を抱き締めてしまう。
「秋葉さん、誕生日…いつでしたっけ」
「……何だ、突然」
大人しく腕の中に納まったまま、秋葉は軽く笑った。
「……12月25日。世間が盛り上がった後だから、本当のクリスマスって忘れられるんだよな」
俺の誕生日もな、と少々拗ね気味に言う秋葉を、かわいいと梶原は思う。
もちろん、そんなことを口に出したら速攻で殴られるから言わずにおくが。
「俺は当日のほうが好きですよ?」
梶原の言葉に、秋葉は僅かに首を傾げた。
「だって、起きた時に楽しみがあるもん」
「……ガキかよ」
秋葉の唇が笑みを結ぶ気配。
「お前は?いつだっけ」
開いたままだった雑誌を、秋葉は右手で閉じる。
絶対に梶原に自分の顔を見せないように。
背中はまだ緊張している。
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