公安第一課(裏?)

□邂逅
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第一印象は

得体の知れない男。



梶原が急病で仕事を休んだ。
別にどうでもいいのだが、恐らく彼が刑事課に配属されて以来初めての事だったので、若干気になる。
そんな言い訳を自分にしながら、秋葉は梶原が住むマンションを訪ねた。
1階のエレベーターホールには既に先客がいて、降りてきた箱に乗り込んだ所だった。
僅かに目が合い、その男性は扉を開けたまま秋葉を待ってくれた。
「すみません」
会釈して礼を言い、秋葉は彼の後ろに立つ。
何となく背中を壁につけていないと落ち着かない。
(6階、か)
行く先は同じ階のようで。エレベーターは上昇を始める。
(何者…かな)
さりげなく視線を向けて、彼を見た。
逆に彼がこちらを伺っている気配も感じる。
30代後半。
自分よりも10歳上……くらいだろうか。
武術の心得がありそうな隙の無い背中。
だが、その鋭敏な空気を相手に悟られないくらいまでうまく隠している。
秋葉が僅かでもそれを感じ取る事ができるのは、日常の習性のせいだろう。
職務中なら職質をかけたくなるくらいは危うい雰囲気の男だ。
しかし恐らく彼は、揺るがない自己犠牲に似た信念のようなものを持っている。
そして人の上に立つ責任と、守るべき何かを持っている。
………ような、気がする。
(いや…。案外…殺し屋…だったり?)
ふと浮かんだ冗談のような思考を追いやった時、エレベーターが6階につき扉が開いた。再び、彼が「開」のボタンを押してくれた。軽く会釈して秋葉は先に箱から降りた。
自分は左へ。
振り向く事はしなかったが、背中に一瞬視線を感じた。
………彼は右へ。
その足音を聞いて、ようやく自分が緊張していた事に気付き、秋葉は息を吐いた。



再び「彼」の姿を見たのは、駅前で都知事が演説をするために、交通と聴衆の整理に駆り出された時だった。
「………なるほどね……」
秋葉は先日のエレベーターの中の空気を思い出す。
あの隙のない、いつでも次の動きに移れるような姿は。
「SP、か………」
(………職質かけてたら大笑いだったな………)
ふと彼と目が合った気がして、秋葉はそう思った。

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