公安第一課(裏?)

□Pilot bird
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迷いも戸惑いも

何もかもを捨てることができたら

いつか世界は変わるだろうか



 
「一昨日は、すみませんでした」
「………?」
非番の日の夕刻。
唐突に部屋を訪ねてきた梶原に言われ、秋葉は首を傾げた。
「何か、あったっけ?」
一昨日。
「俺、ひどい事言いました。秋葉さんに」
尚更分からなくなり、秋葉は返答に詰まる。
「あの…。一昨日、喫煙所で」
ようやく秋葉の中で、梶原が言おうとしていることが理解できた。
「何かお前にひどい事言われたか?俺」
とりあえず、玄関先で話しているもの変な気がして。秋葉はドアを大きく開いて梶原を中に入れた。
いつの間にか、部屋の中は薄暗くなっている。
秋葉は灯りをつけ床に座り、火をつけたばかりだった煙草を灰皿に押し付けて消した。
「何が気になってるんだ?」
年老いた妻が自宅で介護していた寝たきりの夫を絞殺した事件。
目の前に座る梶原は、あの時ひどく落ち込んでいた。
吸えもしない煙草を一本提供し、泣かせてやっただけなのだが。
「秋葉さんは、ああいう現場見ても何も思わないんですか……って」
「………何も思わないって言わなかったか?」
それの何が梶原の中で問題なのだろう。
今更だがやはりショックが強かったのだろうかと思いながら、秋葉は言う。
「いちいち感情に振り回されてたら…仕事できないって」
「……言われました」
梶原の呟きに、秋葉は少し疲れたように溜息をついた。
このまっすぐな後輩から、逃げたい。
梶原はいつも秋葉が押し殺している心に触れようとする。
触れられたくない、奥底に眠らせているものに。
「平気、ですか?」
「平気だって……」
食い下がろうとする梶原に、秋葉は苦笑して言葉を返した。
梶原を見ると、真剣なまなざしで自分を見ている。
彼の全てを見透かすようなその目が怖いのだ。
逃げる事も許さず、ごまかしも通用しない。
ただ、純粋な、子供の様なまなざしで。
「じゃあ、秋葉さん。どうしてそんな顔してるんですか」
こうして、梶原は秋葉の心に手を伸ばしてくる。
「………分からないんですか?自分が今…どんな顔をしてるのか……。本当は…」
「うるさい」
秋葉は梶原の言葉を遮った。
立ち上がり、その場から逃れようとする。
「触るな」
このどす黒い心に、わざわざ触れて汚れる事はない。
そのまま、馬鹿がつくほど素直でいればいい。
「本当は、ずっと泣きたかったんですよね?秋葉さん」
同じように立ち上がった梶原に腕を引かれる。
「うるさい」
怖い、怖い、怖い。
秋葉はその腕を振りほどこうとした。
そんな事を言われても、もう泣き方すら分からないというのに。
「今更……」
震える声を、ようやく押し出す。
ふわり、と梶原の胸に抱きこまれ、秋葉は動きを止めた。
梶原の、まっすぐな感情と優しさが秋葉に痛みを与える。
傷に触れて、心を揺り動かそうとする。
「泣けるか、馬鹿」



強引に引きずられる

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このまぶしい光に

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