公安第一課2(裏)

□風邪
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珍しく、秋葉さんが風邪を引いた。
精神的なものからくる発熱は何度か見たことがあるけれど、『風邪』を引いた秋葉さんを見るのは初めて、かも知れない。
ところが。
普段は限りなく低空飛行の秋葉さん。
風邪にやられると、ちょっと人が変わるんだ。



「秋葉さ〜ん、熱出てるんだから、おとなしく寝ててっ」
何度言っても聞きやしない。
熱は38度丁度。インフルちゃんかもしれないのに。
例によって、秋葉さんは病院に行こうとしない。
顔をしかめて葛根湯は飲んでくれたけど、そんなの完全に風邪引いちゃったら効くわけないじゃん。
普段は白い頬がほんのり赤くなって、それはそれでいいんだけど。
秋葉さんは言うことを聞かない。
何度布団に押し込めようが、目を離した隙に起きだしてしまう。
そして何をするかといえば、外出するために着替えようとするんだ。
「い、や、だ。絶対買いに行くの」
「…何を?俺、代わりに買ってきますって」
ずるずると、俺は寝室へと秋葉さんを引きずった。
「……あれ、何が欲しいんだっけ?」
「もう〜っ!」
あのね秋葉さん。
子供じゃないんだから。
「あ、じゃあ、服買いに行く…」
「じゃあってなんですか、じゃあって」
「コート、欲しいし」
「今、熱出てる時に行く必要ないでしょう?」
やっぱり、熱でどこかがやられてるんだ。
こんなテンションの高い秋葉さんは滅多に拝めない。
外は今季初の寒波がやってきているというのに。
「ん〜とね…」
「考えてる時点で出かける必要ないです!」
ぴしゃりとやっつけても、尚も秋葉さんはじたばたと暴れる。
あのね秋葉さん。
子供じゃないんだから。
「…どおしても、出かけたい〜!」
「だだっ子ですか、あなた…」
どうしても、の発音が『どおしても』になっているあたり、もう危ないんじゃないかと思うんだけど。
「…駄目?」
熱で潤んだ目で見上げられ、俺は肩をがっくりと落として盛大な溜息をついた。
「…ふう…わかりました。俺も支度するからちょっと待っててください」
「梶原、好きっ」
「こんな時ばっかり。…行き先、病院ですからね」
ダウンジャケットを手にして、秋葉さんを真顔で見てみた。
「…前言撤回…キライ…」
う。
その口でキライとか言われたら、やっぱり辛いかも。
いやいや、でもでもここはひとつ、心を鬼にして。
「病院行って注射してもらいましょ」
テンションが上がりまくっていた秋葉さんは、一気に普段通りの秋葉さんになる。
「…いい。行かない」
「じゃあ、おとなしく、寝ててください」
しおしおと、寝室へと戻って扉を閉めてしまった秋葉さん。
こんな時くらい、俺が勝ってもいいよね。

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