NOVEL

□大学四年生
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彼女が死んだ。僕にはどうすることも出来なかった。これで良かったようにも思える。涙は出ない。
線香の匂い。開かない瞼。それとあちこちから漏れる嗚咽。
僕は少し退屈していた。


彼女と知り合ったのは大学一年の時だ。僕も彼女もそれぞれ違う田舎から東京に出てきた者だった。そこまでランクの高い大学でもなかったせいか、周りには自分達のような者はいなかった。僕達は同じような、一種の疎外感を感じていたんだと思う。気づけば僕は彼女とばかり時間を過ごしていた。
彼女と付き合い始めるのも時間の問題であった。
彼女と付き合い始めてわかったことがある。どこかで薄々感じてはいたのだが、どうやら彼女も僕と同じように家族に対する反発からこちらへ出てきたらしい。僕は彼女と共通項を見つけては喜んでいた。まぁ今思えば、寧ろ彼女に影響されてばかりの自分だったのだが。
そんな彼女であったから、僕は彼女が時折漏らす愚痴も苦には思わなかった。彼女のことがより知れて喜びすら感じていた。その喜び故に僕はあまりに盲目であった。



通夜が一通り終わり、僕は彼女の親族に挨拶に出向いた。彼等は皆涙を浮かべており、それでいて僕に対する気遣いも忘れなかった。何もかもが平に見えた。まるで水平線のように。茶番に思えた。僕はひどく眠かった。


彼女が病院に通っているのを知ったのは三年になってからであっただろうか。彼女がちょっとした騒動を起こしたことで僕はそれを初めて知った。ショックだった。
それから色々なことを知った。彼女の本当の家族は皆彼女を置いて夜逃げしてしまったこと。今の家族は昔家族が借金をしていた相手だということ。彼女はなかば借金の肩代わりとして置いていかれたのだった。彼女が言うには随分と悲惨な生活を送っていたようであった。僕は何も知らなかった。何も知らないままに僕は彼女に共通項を勝手に見出して一人悦に入っていたのだ。
彼女はそのうちに僕に殺して、と頼むようになった。僕は何もできなかった。何もできないままに僕は彼女から段々と距離を置くようになっていた。
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