-other-

□Innamorare.
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学生の間では、まるで血の匂いに誘われるように現れては、剣を振るい、人を薙ぎ倒していく鮫の様な男だと評判だった。


私には、ただ単に剣が大好きで大好きで仕方ない子供にしか見えないんだけどね。








「全く、厄介な子供ね。」
「ああ?ガキ扱いすんじゃねぇ……って、ぃでえぇ!」

ぎゅ、と包帯をきつめに巻いてやる。
するとやはり痛かったのか、顔をしかめて呻いた。
ふん、少しは痛みというものを噛み締めなさい。


「スペルビ君、何度目だか分かってるの?
毎度毎度治療する私の身にもなりなさい。」

溜息と共に医療道具を片す。
もう毎日の様に私は彼の怪我を治療している。



「それが名無子の仕事だろぉ。」
「苗字先生と言いなさい。」
全く、私を呼び捨てする生徒は君くらいなんだから。

彼はこの学校の生徒で、私はその医務室の保険医。
マフィアを目指す子が多いこの学校で、私は毎日忙しい。その中でも彼、スペルビ・スクアーロの訪問数は群を抜いている。

彼曰く、剣術を磨く為の修行みたいなもんだぁ、と鼻高々な様子だったが、私にはただの厄介な生徒だ。
いっつもいっつも怪我をこさえてきやがって…。



「強くなりたくて戦うのも結構だけど、怪我してくるのはやめなさい。
どうせスペルビ君のことだから、危険も顧みずに突っ込んで行ったりするんでしょう。」
「守りなんざ俺の性に合わねえ。それにあいつら程度じゃ俺は死んだりしねえしなぁ。」
「あら、でもそんな程度のやつらに傷を負わされるんじゃ、スペルビ君もまだまだね。」

まだ子供だもの、大人相手じゃ無傷で勝つのは難しいかしらねえ、とわざとらしく零せば、プライドにでも障ったのだろう、むっとした表情でスペルビ君は言った。



「次は絶対、無傷で勝ってきてやる。
そしたらもう子供扱いすんなよ、名無子。」

子供扱いがそんなに嫌なのか。
スペルビ君くらいの年齢は大人ぶりたがるもんねー。
でもそんな所がまだまだ子供。勿論、そんな余計な一言は言わない。

「ふふ、じゃあ些細な傷でも負ったら、これからはちゃんと苗字先生、って呼びなさいね。」

賭けの様な約束。
忘れんなよ、とスペルビ君はにやりと笑った。
その笑顔は年齢にそぐわずに大人っぽい表情で、思わずどきりとした。





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