-other-

□双方向
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「戦となると好戦的なのに、不思議なもんだね」


佐助は、一番駆けと猛りつつ、敵陣に突っ込む自分の主を見てそうぼやいた。


戦において好戦的なのは全くもって構わないのだが、この主、戦が済めば精神年齢が過剰に低下する。
精神年齢と言う表現には、語弊があるが、まあ、戦中も恋愛になると破廉恥だのなんだのうるさく、つまりはそういうことで。


部下の猿飛佐助の目下の悩みは、いつまで経っても進展が見られない主、真田幸村の恋愛事情であった。











勇ましい活躍を見せた真田隊の戦果もあって、武田軍は勝利を収めた。

意気揚揚と戦装束のまま幸村が向かう先は甘味処。
幸村の目当ては、そこの絶品と謳われる団子と、そこで働く少女であるのだが、この性格ゆえに話す以外の関わりはない。



「幸村様、本日もお疲れ様でございました」
ぺこり、とお辞儀をしながらお茶を持って来た少女。
ニコニコと人当たりのよい笑顔でとても可愛らしい。

「名無子殿、お久しゅうござる」
幸村も内心は破廉恥、とか叫びたい程に緊張してはいるのだが、何とかその気恥ずかしさを押し込めて挨拶をする。

戦では勇猛たる幸村が、恋愛でどぎまぎする様子を眺める忍が一人。
幸村のオカンこと猿飛佐助。


「ったく、何時まで経っても進展しない恋愛事情ほど苛々するもんはないね。

進展するのは、旦那の団子の消費量と食費ばかり、ってな」

自嘲気味に笑いながらも、母の様な心境で幸村の本日の動向を探る佐助であった。



「そうだ、幸村様。
本日新しく作ってみたものなのですけれど、お一つ如何ですか?」
名無子は、一山の団子をもぐもぐと頬張る幸村を微笑ましく眺めながら、新しく作ったと言う甘味を薦める。


幸村は美味しそうにその甘味を頬張った。

「むむっ、う、美味いでござるよ、名無子殿」
「左様でございますか。
よろしければ、ぜひ皆様で召し上がって下さいな」

そう言って差し出されたのは、三十か四十ほどの数の甘味。

「これはかたじけない。有り難く頂戴致す」
「ふふっ、私が好んでやったことなのですから、お気に為さらないで下さい」
ふわりと笑う名無子の表情を見て、幸村は自分の顔に熱が集まるのを感じた。


いつもいつも、この気持ちを打ち明けたいとは思うのだけれど、なかなか一歩踏み出せない自身を呪った。


(俺は何たる臆病者なのか。
叱って下され、お館様!)



「幸村様、お帰りに?」
大量の団子を食し、尚も平然とする幸村には内心名無子も感嘆するところがあった。


「う、うむ!
その、名無子殿、また(そなたに会いに)来ても宜しいか?」

「はい、いつでも(甘味を食べに)いらして下さいませ」


微妙に両者の言わんとする意味の食い違いに、両者は全く気付いていない。


「えええええ、かっこ内が重要なのに、通じてないよ、旦那ァ!
通じてないまま会話が進んでる」

足取り軽く去って行く主に、部下は幾度目かの溜息を吐いた。





「おや、真田様はお帰りになられたのかい?」
「女将さん。はい、つい先程」

女将はくすくすと笑いながら、名無子を見る。


「で、渡せたのかい?アレ」
女将の言葉に、名無子は照れながら頷く。
「はい」
嬉しそうな表情に、女将もまた嬉しそうに微笑んだのだった。

「でも真田様のことだから、アレが名無子ちゃんの手作りだとは分からないだろうねぇ」

名無子ちゃんの甘味は、絶品なのに真田様以外には滅多に作らないからね、と女将は名無子をからかう様に言った。

それに名無子が顔を真っ赤にさせたのは言うまでもない。



「ほーんと、進展しない恋愛ほど見てて耐えられないものはないね」


お互い好きなんだから、サッサとくっついちゃえばいいのに。

部下の苦悩は、まだまだ続きそうだ。





双方向の恋。
(くっついたらくっついたで、からかってやろう)






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