-other-

□奏で
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分かっていたのは、ただ彼の掌の……。








「佐助は将来の夢、とかある?」

私は高三になると大概渡される進路調査希望書を見つめながら、彼に問う。
彼は、橙色の綺麗な髪にヘアバンドを着けながら軽く答える。


「んー。俺様は教師目指してるから、教育学部のある大学に進学。」

あくまで希望な、と彼はいつもの柔らかい笑みを浮かべた。


「…佐助向いてるよ。幸村の世話焼き度を見るに、オカン先生って感じ。」
「!?それって確実に褒めてないよね?」

なんだよー、と彼は不貞腐れた様に机に突っ伏した。
私は彼の橙の髪を撫でて梳く。
彼は驚いた様に私を見る。







「佐助は、偉いと思うよ。ちゃんと、将来の夢があるんだからさ。」
「…………?…名無子は、夢、ないの?」








ああ、聞かないでよ。
残酷…いや、この流れではそれが普通か。





「…駄目、だって。そんな非現実的で叶い難い夢は捨てろ、ってさー。」








≪貴女の為を思って言っているの。≫




そう、親は言った。
それは、とても嬉しく、有り難いことなのだろうけど。
私の【為】を思っていても私の【心】は、私の【夢】は、思ってもくれないのか。








実行しないで悔やむより、実行して苦労する方がいいのに。







「……俺、名無子のピアノ、好きだよ。」
「……………………………………よく分かったね。」
「そりゃあ、何時も一緒にいるしねー。行った方がいいと思うよ。…留学。」








ぽん、と頭を撫でられる。

掌から、温かさが伝わる。
じわ、と目頭が熱くなった。







「ふふ、佐助、やっぱ教師に向いてる。」
苦笑いして言えば、佐助も笑った。







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