Novel
□今日の世界
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留三郎は学園長のお使いで町まで出て団子を買いに行っていた。
面倒だと思っていたが、天気もさほどよく、空が青く、高く気持ちの良い日であり、少しだけ気が晴れた。
「すみません、お団子五人前。持って帰るので袋お願いします」
「はいよ」
団子屋の奥からお婆さんらしき人が答えた。
団子はものの5分もかからないで出来上がった。
「おまちどうさま」
「ありがとうございます」
団子を受けとり、団子の温かさに微笑みながら留三郎歩いていたが、はふと、足を止めた。
「潮江…?」
そこには恋仲である文次郎が木下で座っていた。
「おい、潮江」
留三郎はゆっくり駆け寄りながら愛しの人の名前を呼んだ。
もっとも、文次郎は留三郎に下の名前で呼ばれるのを恥ずかしいから嫌なようで、留三郎は苗字で呼んでいる。
「け、食満?」
言うのも恥ずかしいらしく、留三郎を呼ぶ時も苗字である。
「なにしてんだそんなところで」
留三郎は嬉しそうな声のトーンで話しかけた。
「いい天気だから少し散歩でもと思ってな」
文次郎は目を閉じて天を仰いだ。
風が当たって気持ちが良いみたいで、文次郎は少し微笑んだ。
文次郎を見て留三郎はとても綺麗だと思った。
胸が少し高鳴った。
「なあ潮江団子食うか?」
「それって学園長に頼まれたやつじゃないのか?」
「よくわかったな。でもちょっと余分に買ったから食ってもへいきだ」
やれやれ自分で食べる気か、はたまた後輩にあげる予定だったのか、いずれにせよ抜かりない奴、と文次郎は思った。
「ほら、食えって元々お前と食おうと思って買ったんだから」
文次郎は胸が高鳴るのを感じた。
恋い焦がれている相手が自分の為に何かしてくれる。
この上ない幸せであった。
「ほら潮江、あーん」
「バカタレ!自分で食えるわ!」
真っ赤になった顔を伏せつつ、文次郎は団子を受け取り、口に運んだ。
甘く柔らかい団子の味が口の中に広がった。
幸せ、文次郎は思った。