GS以外の小説

□暁の車(月神×狩人)
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くるくる、紡がれる縁。
くるくる、進む時の流れ。

ぐるぐる、廻る世界。

好転と暗転の繰り返し。
其の永久運動の中に私が居る。

歯車として、己を磨耗し失うばかりの私が此れ以上、何を畏れれば良いのだろう。

童達と何も変わらない。
幼い侭の私には、想いだけが全て。
結果がどう成ろうと前をひたすら見て進むしか無いのだ。

例え先に何が待ち受けて居たとしても、我が手で止める術を全く持ち合わせないのだから。


聖闘士星矢並行次元小説


月神の恋 神代編Scene.3


暁の車


月神Side



新月の闇。
漆黒の帳。

白百合の甘ったるい香に包まれ私は、唄って居た。
音楽の神でも有るアポロンが爪弾くキタラーの哀しい旋律が、其れに合わせて流れる。

天闘士に襲撃された後、目が覚めた私は、もう今や使われる事の無い太陽神の神殿に囚われて居た。

弟と揃いの白亜の建物は、私の神殿と左右対称に為っており機構等知ったる物で有る。
だが、彼の小宇宙が張り巡らされ結界を張られて居る為に、外に出る事は出来ない。

私と弟は"完全"を二つに分けた対と為る存在だ。
正反対の力で阻まれてしまい、到底逃げる事は叶わなかった。

月の天闘士達へも予め手を回し、丸め込んだのだろう。
助けを呼んでも誰も表れなかった。

何とか月の運行を此処から唄で制御する物の、結界の所以で何時もより神力が宙に届かない為、夜迄安定を失い世界のバランスが崩れようとして居る。
況して五月蝿く咎める者の居なくなったエオスが暁を一層短くし過ぎて、事態は深刻に為るばかりだ。

唄う以外に何も出来ない我が身に信徒達の祈りが届く。

(此うして何も出来ない私が神。其れが、何の役に立つのだろう?)

歌い終えて庭を見る。

虫や獣の寝息。
木々や草花のざわめく音。

「姉上、聖務御疲れになったでしょう。」

耳を澄まし少しでも庇護す可き者達の声を知ろうとした私の背後から、弟の気配と甘い香りがした。

「ネクタルと御好きなルクミです。」

恭しく置かれた其れ等は、虜となり神力を著しく消費した身体が欲する栄養源だ。

「………必要有りません。下げて頂戴。」

一瞥した後。
彼に告げ私は、外に向き直る。

「何時迄も強情を張るのは、関心せんな。」

輝かしい太陽神から零れる落胆の溜め息。

「……アルテミス、無駄な抵抗は止せ。身体が弱るだけだ。其んな事をしても我々は死なぬぞ。」

「言われずとも知って居ます。」

「為らば、何故何も口にせぬっ!」

私は、神。
生来、不老不死の存在だ。
大体、地母神の父達への呪いから意図的に造られた物体で有る。

最早、物理的な攻撃でも死ぬ事は、無い。
例え血に掛けられた呪いで、三種の神器に罰を下されようとも死ぬ事は、出来ないだろう。

唯一私を殺せる方法は、弟が持つ二人揃いの優しい弓で射抜く以外に無い。

(確かに馬鹿げてるかも、知れないわね。)

当然、餓死はしない。
が、食事を取らなければ当然神力は落ちて行くばかりなのも事実。

結果、何時か職務に障る事も、解って居る。
だが、異変に怯える民を放置し、己だけが悠々と暮らす等、私には出来なかった。

「………其んなに嫌なら此処から出して下さい。」

故にずっと食事を拒み続け、アポロンが心配して自ら食事を運んで来るのが常に為って居る。

「出来れば、其うして居る。私の事情も察して欲しい。」

「勝手な言い分だ事。」

大気から少しでも癒しを貰おうと柱に近付くと、肉眼で見える程強く張られた小宇宙が反発し、強い光にくらりと目眩がした。

「っ………。」

駆け寄る影。
受け止める逞しい腕。

「姉上?!」

真っ直ぐな空色の瞳が心配の色で私を見下ろす。

「触らないでっ!!」

拒絶する言葉の頑強さから見る間に様子を哀しみへと変える姿に、幽閉した相手が彼で無ければ良かったのにと、胸が軋んだ。
だが、有難うと受け入れる訳に
は、いかない。

「………御節介だが、少し寝た方が良い。食事は、此の侭置いて措きます。」

輝ける太陽らしくも無く、肩を落とし部屋を去る背中。

『カリステ、貴女は残酷な人だ。』

時神が、眼前で茶番劇を演じる我等双子神を嘲笑う。
再び閉ざされた部屋の中で深い慟哭から私は、息荒く咽び泣いたのだった。

☆ミ

泣き疲れたのか、どうやら眠ってしまって居たらしい。
誰かに揺り起こされて意識を取り戻し、臥せて居た上体を起こす。

「おはようございます、アルテミス様。」

私の肩に手を置いて居たのは、天闘士。
其の中でも盲目的に弟を慕う男だった。

「御召し替えを御持ち致しました。」

言葉の穏やかさとは、裏腹に憎しみの篭った目線が否応無く私を注視する。

「………ヒュアキントス、何か言いたい事が有る様ですね。」

「僕なら……あの御方の気持ちを一番に察するのに、なのにどうして貴女を………。」

顰めた顔に苦しさが滲んで居た。

「解りました。では、御前が気が済む様にすれば良い。」

視線を落とし、どうしようも無く渦巻く愛憎を受け流す。

「其う出来れば、苦労等致しません。責務が有りますので私は、此れで。」

閉められた重い扉の音。
山羊の乳で顔を洗い、帯を解いて着て居た衣服を脱いだ。

「時神クロノスよ、居るのでしょう?」

『ええ、然し着替える女神の御前に姿を表すのは、気が引けますがね。』

丈の短いチュニックを纏い、再び帯を閉め直す。

「頼みが有ります。」

『此処から逃がしてくれ、ですか。』

天闘士達にも崩れた世界のバランスに依る作用が及ぶ今、一刻の猶予も無い。

「其うです。時を支配する貴方なら出来る筈。」

『ええ、出来ます。然し幽体の身で時間を止めるのは、至難の技。』

「対価なら払います。望みは?」

綻びが凶事を起こして止められなく為る前に、早く外に出てエオスに逢わなければ、大きな厄災が起こるのは、必定。
躊躇い迷って居る暇等、私には、無かった。

☆ミ

月の車を走らせる白み始めた夜空の道。
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