「用語集」
□現代思想用語集・詳細欄
1ページ/17ページ
▽ほう[法]
社会の構成員を実効的に拘束する命令の群。(08.5.18)
1 問題の所在
「法」という言葉の意義としては
[T]法規範,[U]方法,[V]法師(仏教上の用法)
が挙げられる。
「法」という言葉の哲学上問題になるのは,[T]のそれであろう。
この意味での法とは,最大公約数的には,社会の構成員を実効的に拘束する命令の群ということができる(08.5.17)。
「法とは何か。」という問題は,[T]法の妥当根拠,[U]道徳との区別,[V]法源,[W]存在形態に分かれようが,[V],[W]は,法学上の専門的な問題であり,本稿では取り扱わない。
2 法の妥当根拠
(1)総説
法の妥当根拠とは,実効的な拘束力が認められる法とはどのようなものであるか,という問題である。
法の妥当根拠の捉え方については,大きく以下の2つの問題がある。
@法の妥当性の根拠として,[T]事実的妥当性(法が現実に遵守・適用され実現されていること。efficacy)のほかに,[U]規範的妥当性(法が構成員を拘束し義務づける性質があるということ。Validity)をも考慮するか否か。
A法の妥当性の根拠として,[T]法内在的なもののみで足りるとするか,[U]法以外の外在的なものが必要であるとするのか。
(2)規範的妥当性の要否
伝統的には,規範的妥当性の考察が必要であるとされる。
しかし,この見解に対しては,リアリズム法学による批判がある。
特に,北欧リアリズム法学の大勢は,法の規範的妥当性の問題は,形而上学的観念として斥ける傾向がある。この見解に立てば,次の法の妥当根拠に関する議論も無用な議論ということになる。
この見解に対しては,法の妥当性の意味を捉え尽くすことはできないという批判がなされる。
因みに,管理者は,この見解が正当なものと思う。
だから,(3)以下の記述は,単なる知識の羅列に過ぎない。
(3)法実証主義的妥当論
以下,法の妥当根拠について整理するが,最初に(3)として,法実証主義を取り扱い,次に(4)として,法外在的な根拠を問題にする見解を取り扱う。
法実証的アプローチの特性は,次のとおりである。
すなわち,この立場によれば,法の妥当性の根拠は,実定法制度上,正当化されているだけでよいとされる。
どのような場合に,実定法制度上妥当とされているのかという基準の問題などについては,見解の相違がある。
[T]命令説
@主権者(法を作る権限のある者)の一般的かつ強制的な命令であって,かつ,Aその名宛人の明示・黙示の服従があればよいとする見解。
J・L・オースティンなどが提唱した。
この見解に対しては,法と強盗の脅迫との区別が付かないなどとする批判がなされる(R・ドゥオーキン「権利論〔増補版〕」10頁,H.L.A.ハート「法学・哲学論集」67頁)。
[U]法段階説(純粋法学,根本規範論)
法の客観的妥当性の根拠を専ら上位規範が会規範の妥当根拠になるという段階構造によって説明しようとする見解。
ハンス・ケルゼンが提唱した。
この見解によると,最上位の規範として「根本規範」が仮定され,根本規範は,実効的な法秩序の存在を条件として,先験論理的に前提にされた規範であり,その妥当性の根拠は問われないとされる。
[V]ハートの法理論〜2つのルールの峻別。
個々人の行動に関する「第一次ルール」と第一次ルールの承認・変更・裁定に係わる「第二次ルール」に峻別し,@第二次ルールに関する承認のルールが法制度の下にある公務員の公式な行動の基準として実効的に受容されていなければならないという条件と,A承認のルールに基づく基準に従って妥当とされる行動のルールが私人に一般的に遵守されているという条件が,法制度の最低限度の要件であるとする。
以上のような法実証主義的な見解に対しては,そもそもこれらの見解が仮定する「義務を付与するような規範」が本当に存在すると言えるのかという批判が妥当する。
(4)法外在的な妥当根拠論
[T]実力説
実力や強制によって,法の妥当根拠が与えられるとする見解。
この見解に対しては,事実上服従させるだけで,服従の(本質的な)義務を課すことはできないとの批判が妥当する。
[U]承認説
社会契約説などのように,承認を妥当性の根拠にする見解。
※参考文献
田中成明「法理学講義」49頁以下
橋爪大三郎「言語ゲームと社会理論」79頁以下
3 法と道徳の区別
以下のような見解がある。なお、名称は管理者による。
[T]内心・行為区分説
行為の外的過程に関するものが法であり,内面に立ち入るものが道徳であるとする見解。
トマジウスが主唱者である。
[U]動機区分説
動機に関わりなく,規則に一致すればよいのが法であり,善い動機を求めるものが道徳であるとする見解。
カントが主唱者である。
[V]最低基準説
倫理的最小限度を求めるものが法であり,それ以上のものを求めるものが道徳であるとする見解。
ゲオルク・イェリネックが主唱者である。
[W]最高限度説
法の効力に着目し,倫理的最大限度を求めるものが法であり,それを求めないものが道徳であるとする見解。
シュモラーが主唱者である。
[X]強制力説
公的な強制力を伴い公権力によって強行されうる社会規範が法であり,強制力を伴わないものが道徳であるとする見解。
ベンサム,オースティン,ハート,ラズ等のイギリス分析法理学者やケルゼン等が主張する。
この見解に対しては,国家の刑罰や強制執行は例外的なものに過ぎないとする批判がなされる(エールリッヒ)。
※参考文献
田中成明「法理学講義」108頁以下,130頁以下
団藤重光「法学の基礎」10頁以下
→本編「ほ」に戻る