「日誌撰集」

□「私的芸術論」
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6 芸術と商業主義

 冒頭で,江川達也の著書からの引用を取り上げました。
 そこには,芸術作品のメッセージと技術との関係に対する視点が凝縮されているように思えます。
 以下に再掲します。

 「本宮ひろ志先生は,ネームを見せて開口一番こう尋ねた「これ売れると思うか?」と。
『面白いか』でも『なにか感じるか』でもない,ただ『売れるか』どうかを先生は訊いてきた。テーマ性とか作者のメッセージ云々にこだわっていた純朴な漫画青年にはきつい洗礼だった。」
 
 江川達也自身は,引用文中の本宮の発言について,単純な商業主義ととらえているような感じがしますが,私は,芸術作品の持つメッセージの内面化に関する洞察を含むもののように思えます(このような作者の伝播しようとするメッセージ以外のメッセージを鑑賞者が受け取るということをどう考えるのかも一つの問題ですが,別稿に譲ります)。
 芸術作品においては,江川達也の引用文中の言葉のようにテーマ性やメッセージ性というものが重視されがちです。
 確かに,それが重要でしょう。 
 作者のテーマやメッセージがなければ,そもそも表現すること自体が無意味になるからです。
 しかし,その発想が行きすぎると,技術という側面がおろそかになります。
 技術という言葉で,ピンとこないのであれば,表現方法というものがおろそかになる。
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