「日誌撰集」
□「私的芸術論」
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話を少し説得に戻しましょう。
実現しようとする自己の目的の独自性と,その伝播する力の強さは反比例の関係に立ちます。
説得しようとする内容が一般的でなくなればなくなるほど,受け手にとっては,奇異な主張のように感じるため,受け容れがたいものとなります。
したがって,説得のための高度な技術が必要となります。そして,説得しようとする内容が本当に一般的であれば,その伝播は容易でしょうが,それは,敢えて,説得をする必要はない事柄でしょう。
なぜなら,伝播しようとしているその考え方を既に相手方が持っているのですから。
芸術も同じです。
そこに語られようとするメッセージが一般的でなくなればなくなるほど,すなわち,「尖って」いればいるほど,それを伝えて,感動をもたらすためには,高度な技術が必要となります。
メッセージが一般的であれば,技術はいりません。
しかし,わざわざそのメッセージを伝える必然はありません。
そして,受け手にとっても,そのような作品は不要です。
特殊なメッセージを相手方に伝達し,しかも,それを内面化させる,すなわち,相手方にも同様の感情や考え方を抱かせる,そこに芸術作品の難しさとそれに比例する価値があります。