「日誌撰集」

□法曹関係小論集
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「日本弁護士連合会『法曹人口問題に関する緊急提言』について」(1)

 去る平成20年7月18日,日弁連が「法曹人口問題に関する緊急提言」として,差し当たり年間3000人まで法曹(裁判官,検察官,弁護士)人口を増やすという司法制度改革審議会(司法審)で出された提言を踏まえた政府方針に対し異を唱え,漸減すべきという提言をしました。
 さらに,日弁連会長と官房長官が舌戦を戦わせる(?)という新聞記事も出たところです。

 司法審で当時の中坊公平委員から年間3000人増加させるとの案が出て,そのまま司法審の意見として固まったのは,平成12年のことだったと記憶しています。
 中坊委員は,日弁連会長を勤めた弁護士会の代表でした。
 年間3000人のうち殆どは弁護士になるはずで,それだけの員数の弁護士が増えれば,過当競争が起き,現に弁護士である人たちの既得権益が失われることになります。
 その既得権益が失われる立場にある弁護士会の代表が大幅な増員を提言したのですから,既得権益を犠牲にしてでも,一般市民の利益を擁護することを宣明にしたということで,当時は,感心をしました。
 しかし,今回の増加反対の提言によって,日弁連は,特定の職能の利益を擁護する立場を鮮明にしました。

 ちょっとここで,弁護士になるための過程を説明しておきましょう。
 弁護士になるためには,原則として「司法試験」という試験に合格しなくてはなりません。
 「原則として」というのは例外のルートもあるのですが,例外はほとんどないので,現実的な考慮をする必要はありません。
 この司法試験ですが,弁護士になりたい人だけが受ける試験ではありません。
 裁判官や検察官(裁判官,検察官,弁護士を「法曹三者」と呼びます。)になりたい人も,原則として,この試験を受からなければなりません。
 ですから,司法試験は,裁判官,検察官,そして,弁護士になるための試験ということになります。
 司法試験に受かっても,すぐ弁護士等として仕事ができるわけではありません。
 いったん,司法修習生という身分(準公務員になります)に就いて,裁判所,検察庁,弁護士事務所で実地研修をやり,最後にまた試験を受けて,この試験(俗に業界では「二回試験」と呼ばれます。)に合格すると,初めて弁護士なら弁護士として仕事ができることになります。
 司法試験は,1年に1度行われる試験で(なお,現在は制度の移行期であり,新制度と旧制度の2回試験が行われています。),その合格者数は,大部長いこと500人前後でした。
 しかし,法曹人口が足りないなどの声を受け,平成3年から600人台の合格者が出るようになり,平成5年には700人を超え,平成11年には1000人台になりました。
 そして,先の司法制度改革審議会の意見を受けて,平成22年ころには,年間3000名の合格者を増やすこととされ,その結果,さらに合格者が増え,平成20年度は,総数約2400名が司法試験に合格する見込みとされています。
 さて,このように増加した司法修習生の中から裁判官や検察官も選ばれるのですが,公務員である以上,予算が限られており,それぞれ年間60名から90名が任官するに止まります。
 結果として,残りは弁護士になるわけです。
 弁護士会は割りと間口が広く,司法修習を修了すれば,推薦人(大体2名)の推薦と登録料を納付するだけで,弁護士として登録ができます(弁護士会に登録しないと弁護士として活動はできない)。日弁連から出している懲戒や登録審査の事例集を見ると「二回試験のときにカンニングをした」ことがある人の登録も受け付けた例があります。
 
 結果,かつてに比べれば多くの人が弁護士になれるようになりました。
 けれども,そのため,就職難の問題が生じるようになっています。
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