「日誌撰集」

□法曹関係小論集
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「日本弁護士連合会『法曹人口問題に関する緊急提言』について」(2)

 弁護士は,その資格をとれば,独立して開業することができます。
 ですが,司法修習を終えてすぐに開業するという例は,従来まれでした。
 というのは,弁護士として取り扱う問題というのは多様であり,理屈だけではない事務的な作業もありますから,到底,学部教育,法科大学院教育や司法修習でその全てを教えることはできません。無論,事務所経営のノウハウもです。また,社会人経験のないまま,弁護士になるのですから,顧客を如何にして開拓するのかという更に現実的な問題もあります。
 そういうわけで,司法修習を終えてもいきなり独立するのではなく,どこかの弁護士事務所に入って,オンザジョブトレーニングで,実務的な知識,感覚を見に付け独立することになります(最近では大手の事務所に入って,その共同経営者(パートナーと言います。)やトップを目指すというのもあります)。
 しかし,常に求人をしている事務所がそんなにあるわけではありません。
 基本的に,弁護士の報酬の水準は高く,新人の相場が年俸500万円〜600万円になるので,早々簡単に事務所が雇い入れるわけにもいきません。
 それで,最近の就職難の問題になるわけです。
 日弁連の緊急提言の理由の大きな柱は,この就職難の問題で,司法試験に合格しながら,事実上弁護士になることができない者が出てくるという点にあります。

 しかし,弁護士の就職難は本当に問題なのでしょうか。
 
 最近問題になっているような,日雇い派遣で企業に良いように使われている人や,若者に増えたいわゆる「ネットカフェ難民」のような人たちの雇用を確保しよう,という話であれば,「社会的な弱者の保護」なのですから,これは是非ともやらなくてはなりません。
 しかし,弁護士は,専門職であり,専門的な技術を持っていることから多額の報酬を得ることが許容されているわけです。先に述べた社会的弱者の人たちを保護する話とはまったく違います。
 就職難とはいえ,優秀な人は事務所に就職できているわけで,就職すらできない,平たく言えば,事務所にいる他の弁護士から見ても一緒に仕事をしたいと思えない人については,そもそも業界から排除されるのが妥当でしょう。
 
 そもそも,弁護士資格を持っていても,弁護士になれないというのは,先進国においては,病理的な現象ではなく,いわば生理現象であって,能力の乏しい人が弁護士として社会に出ることにより一般の人が不利益を被ることを防ぐという選別過程というべきでしょう。
 たとえば,ドイツでは年間約1万人の人が弁護士の有資格者となるわけですが,その中で,裁判官,検察官,弁護士として活動をする人は年間約3000人に止まるといわれています(日弁連法務研究財団編「フォーラム次世代法曹教育」231頁)。
 日本は,ドイツほど弁護士需要があるような感じはしないので,合格者が3000人規模になるのであれば,年間数百人規模で法律事務所に就職できない人が出てくるのは合理的であって,日弁連がいうように問題視する必要はありません。
 
 法曹人口を拡大すれば,質の低下が生じるという議論もあります。
 しかし,それは,1000人〜1500人に合格者が増加したころから問題になっていることです。
 そして,教育に限界があることからすると,競争が無い状況では,能力的に疑問がある弁護士も業界に残れることになってしまいます。
 そうなると,むしろ過剰供給して過当競争をさせ,能力的に疑問がある弁護士は市場から排除するという政策が妥当でしょう。
 弱者保護がおろそかになるという議論もありますが,そもそも社会的弱者の保護は,行政がやるべき仕事であって,弁護士の第一義的な仕事ではないでしょう。
 大体,事務所経営上,弁護士は金持ち相手の商売をやらざるを得ないのですから,弱者保護という非常に限定された現象を過大視すべきではないでしょう。

 そもそも,業界に新規参入する新人にとってみれば,仮に就職活動に苦労するにしても,司法試験合格者数を減らすということになれば,そもそも就職活動すらできなくなるわけで,先に苦労するか,後で苦労するかの違いがあるにすぎません。そして,可能性が拡大するという点では,絶対に就職活動で苦労するのを選ぶに決まっています。
 また,合格者数を減少させれば,就職難問題は解消されるのでしょうが,新規参入の試験段階でスポイルされる人が増加し,就職難ではなく,合格すらできないことで涙する人が出てくるわけですから,日弁連の主張は欺瞞的ですらあります。

 結局,新規参入者を締め出し,既得権益を保護することとしたとしか言いようがないのではないか。
 若干長くなりましたが,日弁連の緊急提言を見てこんなことを考えました。
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