Dear…U
□I Never Forget You
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「……して、わしからも聞きたいことがあるんじゃが――」
「はい?」
「紫苑の奴、一体何と言っておまえさんを口説いたんじゃ?」
真剣な面差しが一転、爛々とした目で訊ねてくる刀鍛冶に沙羅は思わず噎せ込んだ。
「な、なんでそんなこと聞くんですか!」
「いや、あの堅物がどう迫ったのか気になってのぅ」
「どうって……それは、ちょっと」
「いいじゃろう、減るもんでもなし。ほれ、ちょうど紫苑もいないしな」
「で、でも……」
しどろもどろになる沙羅にはお構いなしに刀鍛冶は畳みかける。
「告白の場所はどこだったんじゃ?
あやつにはデリカシーというもんがないからのう。ムードもへったくれもない場所を選ばないとも限らん」
「いえ、そんなことは……」
「そうか?そもそも贈り物に刀を選ぶ時点でなっとらんと思うが、まぁ過ぎたことを言っても仕方ない。うまくいったのはわしの念込めのおかげじゃろうな。
それで?台詞は?」
「台詞って……」
「とぼけなさんな。
いかにあやつでも気の利いた台詞のひとつやふたつは言ったのじゃろう?
わしゃあそれを聞くのを楽しみに待っていたんだからのう」
ここで沙羅はようやく紫苑が店先で待つと言って聞かなかった意味がわかった気がした。
白い顎ヒゲをさすりながら詰め寄ってくるその瞳には、子供も顔負けの好奇心が満ち溢れている。
悪意こそないものの面白がっているのは明白だ。
「紫苑がついてこなかったのは好都合じゃ。
ほれ、今のうちに吐いてしまえ。あやつはなんと言ったんじゃ?」
(助けて紫苑〜〜〜!!)
無論沙羅に刀鍛冶の猛攻を切り抜ける術などなく、痺れを切らした紫苑が店内に踏み込んできたときには大方の顛末を話してしまっていた。
「そうかそうか、あの紫苑がのう。
そんな一端のことも言えるようになったとは」
「……じいさん、あんたの自慢の刀の切れ味、自分で試してみるか?」
「おー怖い怖い。
全く恩知らずな奴じゃのう。誰のおかげでうまくいったと思っとるんじゃ。
そうは思わんか沙羅?」
「お、おじいさん、悪ふざけはそれくらいに――」
「おっと。大事な恋人を呼び捨てたら怒られるかな?」
「…………」
慌てる沙羅を尻目にこれでもかとばかりに紫苑を冷やかした刀鍛冶は、帰り際まで終始上機嫌で二人を見送った。
「……だから行きたくないと言ったんだ。
大体おまえが余計なことをぺらぺらと喋るから……」
「ごめんってば〜」
おかげで沙羅は帰路の道中ふてくされた紫苑を宥める羽目になったのであった。
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