Dear…U

□Through the Sky
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「チッ……藍染の予言通りってわけかよ」


結界の中で渦巻いている膨大な霊圧に目を細めて、グリムジョーは眉根を寄せた。


「このままだと崩玉が暴走するってんなら、とりあえずおまえが宿主になるしかねえだろ。
後のことはそれから考えりゃいい話だ。死神の頭でっかち共がどうにかすんだろ」

「……うん……」


グリムジョーにしては珍しく、気遣いを含んだ物言いだった。

だがそれに応じる沙羅の歯切れは悪い。


「おまえがやらねえなら俺がやってやる。崩玉をこっちに寄越せ」

「やめておけ。口より先に手が出るようなやつを崩玉が選ぶはずがない」

「あァ?てめえそりゃどーゆー意味だ!」

「言葉通りの意味だ」


胸倉に掴みかかったグリムジョーの手を「ほらな」と言いたげに振り払うウルキオラ。

その様子に一瞬笑みを零した沙羅だったが、その表情はまたすぐに曇った。



「……おまえ、まさか市丸の言ったこと真に受けてんじゃねえだろうな」

「…………」


今度は何の返答もできず、押し黙る。


「馬鹿か!それで崩玉をぶっ壊しても死んだら何の意味もねえだろ!」


まっすぐに怒りをぶつけてくるグリムジョーが心地よかった。


「グリムジョー……ありがとう」

「は!?てめ、人の話聞いてんのか!」


へらりと笑う沙羅に苛立ちを露わに詰め寄るグリムジョーだが、行く手をウルキオラに阻まれた。


「もう身体は回復したようだな。
動けるのなら、おまえは付近にいる同胞たちにすぐにここから離れるよう伝えに行け。なるべく多くの者にな」

「んだと?誰がてめえの指図なんか――」

「沙羅が宿主になったとして、完全に暴走が収まるとは限らない。
巻き込まれるのはごめんだろう」

「だったらてめえがやりゃあいいだろうが」

「俺は沙羅から離れるつもりはない。
おまえができないというのならそれまでだ。他に頼める者などいないからな」

「…………」


無言で睨み合うこと数秒。

チッと舌打ちしてからグリムジョーは身を翻した。


「てめえわかってんだろうな?これで貸しは二つだぞ」

「いちいち細かい奴だな。
言われなくても早々に返すさ。おまえに二つも借りがあるのは気分が悪い」

「……前みてえに忘れたらただじゃおかねえからな」

「しつこいぞ。わかったから早く行け」

「グリムジョー……よろしくね」


あしらうウルキオラを肩越しに睨んでから、グリムジョーは崩壊した玉座の間の扉をくぐっていく。

その背中を笑顔で見送っていた沙羅だが、グリムジョーの姿が消えてしばらくすると寂しげに視線を落とした。




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