Dear…U

□Through the Sky
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ぽん。


頭上に置かれた手を辿るようにして、隣のウルキオラを仰ぎ見る。


「……そんな顔をするな」


その翡翠の双眸に映る私は、一体どんな顔をしていたのだろう。

案じるようにふわりと頬を撫でるウルキオラの手の温もりに沙羅は瞼を伏せた。


自分の手と比べたらいくらか冷たいのかもしれない。

それでも確かな温度が、この手にはある。



「どうして何も言わないの?」


意を決して尋ねてみた。

ウルキオラはさして驚きも見せず、小さく肩を竦めてこう告げた。


「おまえがそうと決めたのなら、何を言っても無駄だろう」


そうだろうか。

もしもウルキオラが本気で止めるなら、私は……


そこまで考えて耳の奥に響いたのは彼の声だった。



――ほな、あとは頼むわ――


「……っ」


ギンの哀しげな笑顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。


百年の時の長さを知っている。

彼はその長い長い時間を、たったひとりで、孤独に闘い続けたのだ。

大切な人から奪われたものを取り返す、そのためだけに。


「私は……」


ここへ来る前に願ったことはなんだったか。


桜の木の下でふたりがようやく想いを通わせ合ったあのとき

一度は死に別れた恋人と再び出逢い、結ばれて、ただそれだけでこの上なく幸せだった。


『ずっとひとりにしてごめんね。
……だけどもう離れないから』


ウルキオラの自我が奪われ、虚圏へ乗り込む覚悟を固めたあのとき

今背負っている立場や責務の全てを捨ててでも、ウルキオラを取り戻したいと思った。

ウルキオラと生きる未来が欲しいと思った。


『私は死なないし、ウルキオラも死なせない。そのために行くんだから』


でも、多くの仲間の助力を受けて、ようやくウルキオラと再会を果たして

藍染により仕向けられた、憎しみが新たな憎しみを生むだけのこの闘いを、終わらせたいと思った。


『藍染惣右介を――止める』



単にこの場を収めるだけならば、グリムジョーが言ったように沙羅が崩玉の宿主となればいい。

その後の崩玉の対処については、暴走を止めてから考えればいい。

崩玉の主となることに不安はあるがそれが一番妥当な選択のはずだ。


けれど――


シュウウウ……

崩玉に小さな光の粒が発生し、内部に広がる亀裂を止めようとしていた。既に超速再生が始まっているのだ。

内部の再生が遂げられたら、もう崩玉を破壊することは不可能になるだろう。

そしてギンが百年もの時間をかけて紡ぎ上げたものも、全てが無に帰す――




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