過去拍手

□兵士の安息
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昼過ぎの調査兵団本部。

渡り廊下を歩いていたリヴァイは、裏庭の木陰に捜していた人物の姿を見つけ足を止めた。


「おい、何サボってやがる。昼休みはとっくに――」


剣呑な口調で歩み寄ったところで口を噤む。

木に背をもたれて瞼を伏せる彼女は、どうやら眠っているようだった。


仮にも兵士長を補佐する立場にありながらこんな場所で居眠り姿を晒すとは、いろんな意味でなってない。

頭を蹴り飛ばしてやろうかと脚を振り上げたときだった。


「ん……へいちょう……」


僅かに開いた口から洩れた声にぴくんと動きを止める。

どんな夢を見ているのか知らないが、寝言で自分を呼ばれるというのは悪い気はしない。


「どこ触ってんですか……兵長のスケベ……」

「てめえ踏みつぶすぞ」


前言撤回、夢の内容によっては全く嬉しくないと一瞬で考えを改めてリヴァイは眉間に皺を寄せた。

強めの声で脅したものの、当の本人は相変わらずすやすやと眠っている。

だらしなく緩んだ顔が更に腹立たしい。


ふと視線を落とすと、白い掌にはいくつもの血豆ができていた。

ちょうど硬質ブレードを握る位置にあたる。


朝から姿を見かけないと思ったら、自主訓練してやがったのか。


蹴るのも馬鹿馬鹿しくなってリヴァイは隣に腰を下ろした。

頬をすり抜ける風が心地良くて、木々の隙間から射し込むほどよい木漏れ日がなるほど眠気を誘う。

昼食後の一眠りには絶好の場所なのかもしれない。



「兵長……」

「また寝言か?」


今度は何だ、と身構えて首を向ける。


「……行かないで……」

「……っ」


見ると血豆だらけの細い手が、リヴァイのシャツの袖口をきゅっと握り締めていた。


「おまえ本当に寝てるのか?」


思わずそう問いかけるも、返ってくるのは沈黙だけ。

そもそも面と向かってこんなしおらしいことを言えるような奴じゃない。

眠っているのは間違いないのだろう。


不安そうに強張る寝顔が居た堪れなくて、ぽんと頭に軽く手を置くと安心したように力を抜いた。

普段もこれぐらい素直なら可愛げがあるものを。




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