過去拍手
□特別な言葉
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ヒトはせっかく「言語」という他の動物にはない意志伝達の手段を手に入れたのに
今日という日に告げる言葉は皆決まってこうだ。
「誕生日おめでとう!」
待機所内に入るなり同僚にかけられた言葉に、俺の隣を歩いていた彼女は嬉しそうに笑顔を返している。
今朝から一体何人に同じ台詞を言われただろうね?
いい加減聞き飽きたんじゃないだろうか、とすら思う。
かと思えば今度は別のくノ一が
「Happy Birthday〜!」
いやいや、日本語だろうが英語だろうが同じだって。
おかしなもんだよね。
これだけ多くの人間がいながら、口をついて出る言葉は全く同じなんてさ。
もっとこう、気の効いた台詞ってないもんかねぇ?
「カーカーシ。どうしたの?」
難しい顔をして俯いていた俺を、彼女が下から覗き込んだ。
見ればその両手には、声をかけてきた仲間達から貰ったと思われるプレゼントの包みが山ほど抱えられている。
「……いや。随分たくさんの人に祝われてるなぁと思って」
「ね。みんなよく覚えてくれてるよね」
彼女は笑ってそう言ったけど、それは違う。
大切な人の誕生日は一度聞いたら忘れないものだ。(どうでもいい奴なんかはすぐに忘れちゃうけど)
それだけ彼女がみんなから愛されている証拠だ。
それは純粋に嬉しいと思う、けど――
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