過去拍手
□優しい天使の甘い罰
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「グリムジョーの…………」
「嘘つきーっ!!」
破面、それも十刃同士の痴話喧嘩は壮絶である。
それはもう死闘と言っても差し支えない。
「おまっ……いきなり虚閃なんて出すんじゃねーよ!死んだらどーすんだ!」
虚閃の軌道ギリギリでかわしたグリムジョーは、冷や汗を垂らして私を睨みつけた。
「何よ!グリムジョーなんて一遍死ぬぐらいでちょうどいいのよ!」
「無茶苦茶言うな!」
「無茶苦茶はどっちよ!この浮気者!」
「なっ……」
私の最後の一言に、グリムジョーはこれでもかとばかりに目を剥いた。
空の色を写したその瞳に、ほんの一瞬だけ動揺が走ったのを私は見逃さなかった。
「何言ってんだおまえ?俺がいつ浮気なんかしたんだよ」
落ち着き払った振りをしたって駄目。
決定的な瞬間を私はこの目で見たんだから。
「じゃあ聞くけど、昨日の夜何してたの?」
「……だからさっきも言ったろ。シャウロンたちと飲みに行ってたって」
自宮にいなかった理由づけをしようってわけね?
大方シャウロンたちにもそう言い含めてあるんでしょう?
でもそんな言い訳しても無駄。
私が現世任務に出てると思って気を抜いたんだろうけど、昨日は予定より大幅に早く片付いて夕方には戻ってきてたんだから。
「ふうん、変ね?シャウロンたちと飲むのにどうして桜街へ行く必要があったのかしら?」
そう首を傾げた途端、グリムジョーの顔がさっと青褪めた。
桜街というのは虚園でも有数の宿泊施設が立ち並ぶ、いわゆるホテル街。
自宮にいないグリムジョーの微かな霊圧を辿った私は、そこで一際ネオンの輝かしいホテルに入っていくグリムジョーと見知らぬ女の姿を見てしまったのだ。
「ひょっとしてあのホテルの中にも飲み屋があったのかしら?
何なら今から行って確かめてみる?」
「待てよ……落ち着けって」
「私は十分に落ち着いてるわよ!
グリムジョーこそ少しは落ち着いたらどうなの!?
私がいない隙を見計らっては他の女にちょっかい出して!」
激昂した私にグリムジョーはぐっと黙り込んだ。
彼が浮気をしたのはこれが初めてではないのだ。
ただ今まではこれという証拠もなく確信が持てなかったから言わなかったけど、今回ばかりはもう赦せない。
ここまでコケにされて黙っていられるほど寛大な女じゃない。
「ま、私にはもう関係ないけどね。
そんなに他の女に興味があるならお好きにどうぞ」
「お、おい」
「色々と嫌な思いもさせられたけど、それなりに楽しかったわ。
じゃあね、グリムジョー」
そう吐き捨てて翻した身体は彼の腕にがっちりと掴まれた。
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