過去拍手
□新たな年に願いを
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虚園もすっかり冬の寒さに包まれたその日、虚夜宮の自宮で休んでいると聞き慣れた声が響いてきた。
「もー、いーくつ寝ーるーとー」
次第に大きくなる音量に、バン!と自宮の扉を開く。
「……やかましい」
「あ、ウルキオラ!見て見て!」
俺の文句にはまるで反応せず、そいつはぱぁっと笑って腕の中に抱きかかえたモミの木を突き出して見せた。
「……なんだこれは?」
「知らないの?もうすぐ現世では『オショーガツ』なんだよ」
だから正月とモミの木と何の関係があるのか。
まさかとは思うが門松か何かと勘違いしてるのか。
そう告げようとしたら、今度は目の前にひょいっと細長い紙切れを差し出された。
「はい、これ!ウルキオラも来年の『ホーフ』を書いて!」
「は?」
「ちなみに私のホーフは『人間になれますように!』だよ。
あ、真似しないでよね〜」
「……おまえ抱負の意味わかってるか?」
「え?願い事でしょ?」
きょと、と首を傾げたそいつにガクリと肩を落とした。
「……で、それを書いてどうするんだ」
「うっふっふ〜知りたい?
あのね、願い事を書いた短冊をこのモミの木に飾るんだって!
そうすると鬼が逃げていくんだって!」
……誰だ、こんな無茶苦茶な知識をこいつに詰め込んだ奴は。
というか鬼が逃げるのは良しとして短冊に書いた願い事はどうなる。
くらくらと眩暈がする頭を押さえて、俺より頭一つ分は小さいそいつを見下ろした。
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