過去拍手
□君が為に空は泣く
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――忍はどのような状況においても感情を表に出すべからず。
任務を第一とし、何事にも涙を見せぬ心を持つべし――
忍の掟第25項。
まだ幼かった私に、父は何度もその掟を言って聞かせた。
「泣きそうになったら、空を見ろ」
大きな手で私の頭を撫でて父は言う。
「空が晴れていたら、それはおまえを元気づける為に。
雨が降っていたら、それはおまえの代わりに涙を流してくれているんだ」
そして力強い眼差しで私に笑いかけた。
「だから、どんなときも涙を見せるな。涙は心の中で流せばいい。
強い忍を志すのならな」
それが父の教えだった。
里に偉大な功績を残して殉職した父のことを悪く言う人は誰もいなかったし、私もそんな父を誇りに思っていた。
だから、父が残した言葉を頑なに守り抜いていた。
――あの人に逢うまでは。
「そうかな」
私が初めてその話をしたとき、彼はその鮮やかな銀髪を揺らして首を傾げた。
「空が晴れているなら、それは涙を乾かす為に。
雨が降っているのなら、それは涙を隠す為に、空が助けてくれてるんじゃないの?」
だからいつでも泣いていいんだよ、と言う彼に私は大いに動揺した。
父の教えを覆そうとする人なんて、今までに出逢ったこともなかったから。
「や、俺だっておまえの親父さんのことは尊敬してるし、言ってることも間違っちゃいないと思うよ?
確かに忍が泣いてばっかいたんじゃ任務にならないしね」
彼もまた、父を慕う忍の一人だった。「親父さんには何度絞られたかわからないよ」と。
そんな時代も目まぐるしく駆け抜けて、今では彼が私の師。
なんとも不思議な巡り合わせだと思う。
「じゃあやっぱり忍は涙を見せるべきではないんじゃないですか?」
「ん〜、それはそうなのかもしれないけど、さ」
そう肩をすくめた彼は、額当てに隠されていない右目で私を見つめると、ふわりと笑った。
「けどそうやって涙を隠してたら、おまえの泣ける場所がなくなっちゃうでしょーよ」
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