過去拍手

□∞kmの帰り道
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ドッドッドッドッドッ……


心音がうるさい。

心臓が口から飛び出そうというのはまさにこんな状態を言うんじゃないだろうかと真剣に考えた。


2月14日。

恋する女の子なら誰もが胸を高鳴らせるであろう今日この日に、私の胸は高鳴りを通り越して破裂寸前だ。


制服から覗く膝がガクガクと震えているのは寒さではなく緊張から。

2月だけあって校舎の屋上を吹き抜ける風は身を切るような冷たさだけれど、今の私にはそんなことちっとも気にならなかった。



……どうしよう。

靴箱に入れたメモ、ちゃんと見てくれたかな。

来てくれるかな。


屋上のフェンスの傍に立って眼下を眺めると、校舎から校門に向かう舗道上に下校途中のカップルが何組も見えて、きゅうっと胸が切なくなった。

自転車で二人乗りをしている人、仲良く手を繋いで歩く人。

バレンタインに似つかわしい幸せそうな恋人同士の姿を目の当たりにして、それまで押し殺していた不安が堰を切ったように襲いかかって来る。


もしも彼にもああいう相手がいたら。

来てくれるわけ、ないよね。


昨日一日かけて作ったチョコレートの箱を胸に押し当てて、ぐっと唇を噛み締める。――と。



ギィ……


すっかり立てつけが悪くなっている屋上の扉が開く音が響いて、私は思わずチョコの箱を落としそうになった。

辛うじて破裂は免れたチョコと心臓を押さえて恐る恐る振り返る。


「ウル、キオラ、先輩……」


古びた鉄製の扉を押し開いて現れたのは、春先からずっと想いを寄せている待ち人だった。




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