-蜜-
□それが愛と知った日
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「……ごちそーさま」
口内を堪能しつくしたカカシがゆらりと体を起こす。
冷ややかな唇が離れていくのが惜しい。一瞬でもそう思った自分に驚いて、あげはは伸ばしかけた手を慌てて引っこめた。こんなもの欲しそうな真似をしてしまうなんて、みっともない。
取り繕うまでもなくその仕草を見ていたカカシには筒抜けだったのだろう。ふっと頬を緩めた彼はあげはの手をたぐり寄せると、甲に軽い口づけを落としてすぐに離した。
「もっとしたいのは山々だけど、今日はここまで」
「どうして……?」
ぽやんとした思考に流されるまま口走ってからまたもはっとする。これではまるでねだっているようだ。
困ったように微笑んだカカシは、大きな手でくしゃりとあげはの髪をなでた。
「もう十分もらったし、ソレ目当てだって思われたくないから」
彼は自分を大事にしてくれている。そんなことは身にしみてわかっている。
それでももっと求めてほしい。もっと触れてほしい。
もっと、もっと——
「そんな顔しないでよ」
「そんな顔って、どんな顔ですか」
かあっと頬に熱が集まって俯くと、頭上に置かれていた手に力がこもって引き寄せられた。前髪をかきわけるようにして額に口づけたカカシが、少しの間をおいてぼそりと呟く。
「……他のやつには絶対見せたくないような顔」
言葉と同時に強く抱きこまれたのでそう告げた彼の表情は窺えなかった。
お世辞にもあたたかいとは言えないこの人の温度を、心地よいと感じるようになったのはいつからだろう。
ひやりとした感覚に包まれる皮膚とは裏腹に心は強く昂ぶり、否応なしに思い知らされた。
私は彼を愛してしまったのだと。
*
緩やかに日々は流れ、ふたりだけの時間が過ぎていく。
「さて。今日のメインはなににしようか」
「んー……魚! 魚にしましょう!」
「なに? また釣り対決したいの?」
片目を細めて不遜に笑うカカシにあげはは息まいて腕まくりする。
「今日こそは勝ってみせます」
「10戦全敗なのによく挑む気になるね」
「11度目の正直!」
「あんたって意外と負けず嫌いだよね」
釣竿を持ちだしながら彼はくつくつと肩を揺らした。
「そうだ、どうせなら罰ゲームでも決めない? そのほうがやりがいあるでしょ」
「罰ゲーム?」
「例えばあんたが勝ったら書庫の本は全部あんたのもの、とか」
「えええっ!?」
声を裏返らせたあげははすぐにはたと思いとどまった。そんなうまい話があるわけがない。
「……それでカカシさんが勝ったら?」
「んーそうだな。俺が勝ったら、俺が満足するまであんたの体液を堪能するとか?」
「は……」
あんぐりと口を開けたまま固まる。そもそも体液っていったいどこの液体のことですか。いやどこだったらいいとかそういうことでもないけれど。
「え、遠慮しておきま……」
「さすがに自信ないか、10連敗じゃね」
「受けて立ちます!」
勢いよく立ちあがるとカカシは背を丸めて笑いを噛み殺していた。
「……また簡単に引っかかったと思ってるんでしょう。違いますからね。今日は勝算があるんです」
「はいはい。どんな奥の手があるのか楽しみだ」
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