-蜜-

□昂ぶる、熱
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 翌朝、普段よりも早く目が覚めたあげはは城内の掃き掃除をしながら物思いに耽っていた。
 昨夜はあまり寝つけなかった。それもこれもカカシのお楽しみ発言のせいだ。
 吸血後のデザートとは一体なにをされるのか。考えれば考えるほど頭に熱がのぼる。けれど考えずにはいられない。
 少しでも気を紛らわせようと掃除を始めたもののまったく集中できず、ざかざかと乱雑に掃きすすめると正面からなにかに衝突した。

「わっ! カカカカシさん!!」

 厚い胸板にぶつかった鼻先をおさえてうろたえるあげはに「カカシだけどね」と茶々を入れて、カカシは長い腕を組む。

「部屋にいないと思ったら。なんでこんな早くから掃除?」
「え? あ、えっと、なんか目が冴えちゃって」
「ふーん?」

 寝不足の隈を隠すように笑えば、カカシは頷きを返しつつもその口角はどこか愉しそうにつりあがっていた。

「もしかして緊張して眠れなかった?」
「はいっ!? とってもよく眠れましたけど?」

 視線を明後日の方向に投げながら言った台詞は自分でも白々しいと思った。案の定彼はにんまりと目を細めている。

「へぇ。まあいいけど」
「……」
「あんたってさ」
「……今度はなんですか」
「いや? わかりやすくて可愛いなーと思って」
「朝からふざけないでください!」
「夜ならいいの?」
「よくない! そっちも掃くからそこどいてくれます!」

 くくくと手で口を覆っているカカシを睨みつけるも効果はない。むくれたまま横をすりぬけようとした瞬間、手首を掴まれた。

「なんっ……ですか」

 突然のことに声が裏返る。昨夜からさまざまな想像を膨らませすぎたせいで、この程度の接触にも過敏に反応してしまう。

「……熱い」
「はい?」

 笑みが消えた表情でカカシが呟く。伸びてきたもう一方の手に反射的に身を硬くしたが、それはぺたりと額にあてがわれた。

「いつもより熱い」

 彼の手に温度がないのはいつものこと。けれど今は氷水にでもつけたのかと思うほど冷たかった。

「……あ、れ?」

 自覚した途端にぐにゃりと視界が歪む。前に傾いだ体が筋張った腕に抱きとめられる。

「昨日ちゃんとあったまらなかったでしょ」
「ごめ、なさい……大丈夫ですから」
「大丈夫じゃない」

 咎めるように眉間を寄せたその表情は彼にしては珍しく怒っているようだった。そのままひょいと抱きあげられ、強制的に自室のベッドへと運ばれる。

「とりあえずあったかくして、横になってて。なにか飲む物持ってくる」
「でもカカシさ、」
「いいから寝てて」

 有無を言わせぬ口調にあげはが怯んだ隙にカカシは暖炉に薪をくべて部屋を出ていった。
 自分で湖に落ちたうえにこの体たらくだ。自己管理がなっていないと呆れられても致し方ない。やるせなさと共に悪寒もこみあげてきて毛布にくるまって震えていると、トレイを持ったカカシが戻ってきた。

「カカシさん……」
「起きられる?」

 彼に支えられて背を起こして、唖然とする。トレイにはあたたかい卵粥(たまごがゆ)と生姜湯が用意されていた。

「これカカシさんが作ったんですか?」
「ほかに誰が作るの」

 当然そうだろうとは思うものの、にわかに信じがたい。大体彼が風邪をひいた人間向けのメニューを知っていること自体が不思議だ。
 目を丸くしているとカカシは罰が悪そうに視線をずらしながら、書庫から『からだにやさしいレシピ集』を引っぱりだしたのだと明かした。

「カカシさんって……」
「……なに」
「可愛いですね」

 くすくすと肩を揺らすあげはにカカシは眉をしかめたものの、「さっきのお返しです」と笑う顔を見て瞳をゆるませる。手を合わせて食べ始めたあげはを寝台の横に腰かけて見守った。

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