-蜜-

□溶けあう
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 熱い。
 初めて、彼の体温を、熱いと思った。

 骨ばった長い指も、浅い呼吸を吐きだす唇も、触れれば確かに冷たいのに。あげはの奥深くに沈められたそれは、まるで彼の身体中の熱を集めたかのように熱く脈打ち、中から溶かされてしまいそうだった。

「カ、カシ……さっ……」
「……痛い?」

 気遣わしげな眼差しに首を左右に振る。いっそ痛みを感じたほうがまだよかった。
 彼が一突きするたびに淫らに喘ぎ、翻弄され、わけもわからなくなるほど乱れるくらいなら。

「……あんたの中、良すぎてどうにかなりそう。……動くよ」
「っ……待って、もう……!」
「……足りない。もっと……」

 後ずさりした腰はすぐさま引き戻され、より深くまで熱が埋めこまれた。自分のものとはとても思えないようなはしたない声が喉からあふれる。
 反射的に浮かんだ涙は、頬を濡らすよりも早く冷ややかな舌に舐めとられた。美味そうに舌なめずりするカカシの仕草が異様に艶めかしく、ぞくりと背筋が粟立つ。
 恍惚とした表情は吸血時のそれとはまた違う。彼もまた情欲に駆られているのだと思うと、繋がっている部分が更なる熱を求めて疼いた。

「カカシさ……っ!」

 名を呼ぶことすらままならない。
 指が、舌が、彼の熱が。浸食する。
 躰のみならず、思考さえもとろけそうなほどに深く。

「あげは……っ」

 余裕を欠いた声色が鼓膜を震わせて息を呑んだ。
 彼が求めてくれることが、嬉しい。
 彼を満たせることが、嬉しい。
 求めているのも満たされているのも自分だけではないのだと安堵して、あげはは夢中でカカシにすがりついた。

「あ……あぁっ!」
「くっ……!」

 交じりあい、溶けあって、ひとつになって。
 最後に重ねられた口づけは愛し合う恋人が交わすそれと寸分の違いもなく、ふたりの初めての夜は更けていった。



 窓から射しこむ陽の光が瞼の上をちらついて、あげははうっすらと目をあけた。

「……」

 ああ、今日はいい天気だ。洗濯して布団を干して——などと考えながら身体を起こそうとして、腰のあたりに重みを感じる。
 まだ少しおぼつかない焦点をぼんやりと腰に向けると、筋張った太い腕が背後から抱き込むように回されていた。無論あげはのものではなく。ならば誰の腕かなど本来は考えるまでもないことなのだが、覚醒したばかりの脳にはあまりにも衝撃的な情報で。

「っ!」

 かろうじて悲鳴は押し殺したものの、反射的に身をすくませたのが伝わったのか腕の主が背後で「んん……」とくぐもった声をあげる。その吐息が耳にかかってあげはの鼓動はことさら跳ねあがった。
 逃げるようにふりほどくも、寝台から降りるより早く伸びてきた腕に手繰り寄せられ再び布団の中に引き戻された。

「カカシさんっ!?」
「……どこ行くの」
「着替えようとしただけです。……離してください」
「やだ」
「やだって……」

 子供のような物言いに呆気にとられている隙に、仰向けに縫いとめられた身体にカカシが体重を乗せてきた。

「ちょっ……! だめです!」
「なにがだめなの?」
「あ、朝から、こんな……っ」
「こんな? ってどんな?」

 普段よりも幾分かすれた低音で、カカシがすり、と太ももを合わせてにじり寄ってくる。触れ合った部分から昨夜の熱が甦ってくるようで彼の目を直視できない。
 どうしよう、なんと言って切りぬけよう、と目まぐるしく回る思考に視線を彷徨わせていると、ふと視界に入った彼の肩がかすかに揺れていることに気づいた。一瞬にして我に返り、こちらに注がれている双眸をまじまじと見上げる。

「……カカシさん?」
「ん?」
「…………」
「………………くっ」

 真摯を装っていたカカシが小さく喉を鳴らしたのをあげはは聞き逃さなかった。

「……またそうやってからかってぇぇえ……!」

 怒りに震えるあげはの糾弾が湖上に響いた。

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