Dear…
□A Gray Cat
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気まぐれな猫との出会いは突然だった。
その朝、真央霊術院の渡り廊下にはバタバタと忙しない足音が響き渡っていた。
「嘘でしょー!こんな日に寝坊なんて!」
霊術院の院生服に身を包んだ沙羅は、奇声を上げつつも速度を緩めることなく廊下を駆け抜けている。
この真央霊術院は尸魂界随一の死神養成教育機関であるだけに、その校舎はやたらと広い。
下駄箱から教室までの距離の長さにうんざりしつつ、悪態をついたところでなんら現状を打破できるものではないと悟っている沙羅はただただ先を急いだ。
――と、渡り廊下を走り終えて曲がり角に差しかかった瞬間、反対側から微かな霊圧が近づくのを感じた。
(危ない!)
すかさず身を反転させて進路を変えた直後、ガンッと鈍い音が響いた。
「〜〜〜っ!」
石で殴られたような痛みを訴える額を押さえ、声すら出せずにうずくまる。
すると目の前の人物も同じようにうずくまっていた。
「っつー……てめっ、同じ方向に避けんじゃねえよ!」
「そっちこそ!」
互いに涙目になりながら顔を上げたところで、二人同時にあ、と口を開けた。
「……恋次!」
「沙羅じゃねーか!なんでまだこんなとこにいんだよ」
「それはこっちの台詞――って、そんなこと言ってる場合じゃない!」
「あ、おいっ!抜けがけすんなよ!」
再び腰を上げて走り出した沙羅に続いて、すぐさま恋次も後を追いかける。
「遅刻魔の恋次と一緒にされちゃ迷惑なの!」
「そうはさせるか!こうなったら道連れだ!」
「縁起でもないこと言わないでよー!」
元より時間に正確な沙羅はともかく、遅刻常習犯の恋次までもがここまで焦っている理由は至って明白。
今日は二人が所属する三回生第一組が、同期生の中でも初となる虚の昇華実習を行う日であった。
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