Dear…
□Blue Sky
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退屈極まりないと思われた沙羅の入院生活は、思いの外慌ただしく過ぎていった。
というのは、噂を聞いた隊士たちがこぞって見舞いに押しかけて来た為である。
彼らはそれぞれ「生きててよかった」と縁起でもなく泣き崩れたり、「もう二度と無茶はしないで下さい!」と頭に角を生やしたりしていたが、中でも人一倍小言が激しかったのがルキア。
「どれだけ心配したかわかってるのか!」だとか
「具合が悪かったのなら早く言え!」だとか
それはもうこてんぱんに説教を喰らった。
だが、沙羅が親に叱られた子供のように頭を垂れて「ごめんなさい」と告げれば、口ではまだぶつぶつと言いながらもその表情は穏やかに和らいだ。
そんなお見舞いラッシュもようやく収まり、静けさを取り戻した病室に沙羅が息をついた入院5日目の午後。
「やっほ〜。
あら、あんまやつれてないわね。つまんないの」
嘘とも冗談とも取れないような口調で顔を覗かせたのは、ニカッと笑みを浮かべた親友だった。
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「それにしても過労で倒れるなんて、沙羅らしいってゆーかねぇ」
お土産品のリンゴを頬張りながらあけすけと言い放つ乱菊。
乱菊のこういう物怖じしないところが沙羅は好きだ。
「私もビックリした。全然自覚なかったもの」
シャク、とリンゴを一口噛んで沙羅は肩をすくめる。
ちなみにこのリンゴの皮を剥いたのも沙羅である。
乱菊に剥かせようものならきっと身が半分以下になってしまうに違いないから。
――などということはもちろん口には出さずに、沙羅は率先して果物ナイフを握っていた。
やがて一しきり世間話を終えた頃、沙羅はぽつりと告げた。
「ね。ちょっと外に出ない?」
「はぁ!?あんた少しは身の程わきまえなさいよね。
いくら元気が有り余ってようが病人は病人よ!」
珍しくまともなことを言った乱菊に、それでも、と食い下がる。
「少しぐらい大丈夫。無理もしないから!
ね、いいでしょ?」
口調とは裏腹に沙羅は真剣な面持ちで乱菊を見上げた。
白い天井、白い壁、白い布団。
一面白に包まれたこの部屋は――どうしても彼を思い起こさせる。
いくら頭から退けても浮かび上がる白い残像に、沙羅はこの5日間で辟易していた。
言外に発せられたそのSOSを感じ取ったのか、乱菊は短く嘆息すると「しょうがないわね」と笑ってみせた。
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