Dear…

□Fallen Cherry
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反乱軍の完全鎮圧を目指し南東へと進路を取る杉原と沙羅の軍に、前方から斥候に出していた小隊が帰還し合流した。



「申し上げます!ここより南へ距離五百の地点にて、反乱軍と思われる陣営を確認致しました。
ですが……」


「なんだ」


言いよどむ兵に杉原は先を促す。


「援軍が到着した模様で……当初より大幅に兵力が増加しています。
その数――七百余り」


「七百だと?馬鹿な!
先程裏門へ攻めてきた部隊は三百にも満たなかったはずだろう」


「は……しかし」


声を荒げる杉原に、斥候兵はしどろもどろになりながらも報告に間違いはないことを伝えた。



それを傍らで聞いていた沙羅もまた「そんなはず……」と訝しげな眼差しを向けていたが、ある考えに思い至ったとき唐突に息を呑んで立ちすくんだ。



「まさか……」



ごくりと鳴らした喉を冷や汗が伝う。



「開戦直後の正門への派手な攻撃は…………陽動?」



その呟きを耳に留めた杉原は表情を一変させて歩みを止めた。



「何だと?」


「反乱軍の狙いは最初から裏門を攻め落とすことで……防衛軍が正門側へ兵力を振り分けるのを待っていたのだとしたら――」


「そんな馬鹿なことが」


「ですがそう仮定すれば、先の闘いでの引きの早さも説明がつきます。敵陣の兵力が急激に増加した理由も。
だとしたらすぐに裏門へ戻って守備を固めなければ。
今攻められたら一溜まりもありません!」


バッと振り仰いだ沙羅に対し、杉原は即座に首を横に振って言った。


「君が言っているのはただの憶測だろう。
少し数が増えた程度で騒ぐな。予定通りこのまま進軍する」


「ですがもしそれが現実になったらどうするんですか?
裏門には少数の守備兵を残しただけ……今反乱軍の本隊に攻め込まれたら一気に町中への侵攻を許すことになります!」


「君もわからない人だな。ここまで来て退却などできるか!」


「杉原さん、落ち着いて考えてみて下さい。このままでは――」


「司令官は私だ!たかが第三部隊の指揮官ごときが口出しするな!」



言いすがる沙羅に杉原は怒気を含んだ声で言い放つ。


そうしてそのまま再び進軍の指揮を取り始めた杉原に沙羅はぐっと拳を握り締めた。



自分の杞憂ならそれでいい。


でも……でもこの状況は余りにも――




それから半刻ほど進軍を続けて敵陣を間近に捉えた杉原の軍に、とうとう沙羅の推測を決定付ける報せがもたらされた。







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