Dear…

□Time Flows
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二人が互いの記憶を重ね合わせた頃、辺りはすっかり夜闇に包まれていた。




地面に座り込んだままの沙羅との距離をゆっくりと詰めたウルキオラは、不意にその手を掴み上げて沙羅を立たせる。


そのまま月明りの射す近くの岩場まで手を引き、そこに沙羅を腰かけさせると、ウルキオラは無言で彼女が先程のグリムジョーとの闘いで負った傷の手当てを始めた。



有無を言わせぬその行動にされるがままになりながら、沙羅はすぐ目の前で自分の右腕に霊圧を注いで止血しているウルキオラをぼんやりと眺める。




百年前、この光景を何度目にしたことだろう。



日課となっていた剣の稽古の際、沙羅が手傷を負うと紫苑は決まって終わってから入念な手当てを施した。


それはもう、過保護とも言えるぐらいに。




『――大丈夫だって言ってるのに……』


『かすり傷だからと言って軽視するな。
傷口が化膿すれば運動機能をも脅かしかねない』


『そうじゃなくて、手当てなら自分でもできるってこと。
わざわざ紫苑がやってくれなくても平気だよ』


苦笑を浮かべる沙羅に、紫苑は首を振って傷口に化膿止めを塗り込んだ。


『それは駄目だ。……俺がつけた傷だからな』


『そんなこと気にしてるの?
剣の稽古なんだから怪我するのなんて当たり前じゃない。紫苑のせいじゃないでしょ』


むしろそこで気を遣って手加減されたほうが沙羅はよっぽど憤慨する。


無論それをわかっているからこそ、紫苑もつい手傷を負わせてしまうほどの本気を出さざるを得ないのだが。



『……とにかく手当ては俺がする』



そう言い張って頑として譲らない紫苑に、さすがの沙羅も折れた。


心配性なんだから、と口を尖らせつつも自分の身を案じてくれるその気持ちが嬉しかった。




変わらない。



胸をくすぐられるような想いを抱きながらじっと見つめていたあの頃の光景と、何も変わらない。




「本当に……紫苑なんだね」



沙羅がぽつりと呟くと、包帯を巻き終えて留め具をつけたウルキオラはそこでようやく顔を上げた。




視線が交わる。



大好きだった宝石の瞳が、真っ直ぐに沙羅の姿を映し出す。




「……沙羅…………」




大好きだった声が、あの哀しい雨の日以来初めて沙羅の名を呼んだ。



切なげに響いた呼び声に沙羅は弾かれたように飛び出し、ウルキオラはそれを正面から受け止めた。





その腕の中で感じる温もりも、百年前と何も変わらなかった――







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