Dear…

□No Compromise
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翌朝、通常通りの時間に隊舎に向かった沙羅を待ち構えていたのは、何やら厳しい表情の浮竹だった。



「おはようございます。
昨日は休暇を下さりありがとうございま……」


最後の「した」を言う前にそれに気づいた沙羅は、口を開いたままその場に固まった。



「……隊長?」


「清音から聞いたぞ。
現世で十刃と闘ったそうだな」


いつもより数段低い声音でそう告げた浮竹に、やっぱりと思いながら頭を下げる。



「はい……ご心配をおかけして申し訳ありません」


「全くだ。俺は『病み上がりだから身体を休めろ』という意味で休暇を与えたんだぞ?
現世にふらふら遊びに行かせる為じゃない!」


「すみません……。外の空気が吸いたくなって、つい……」


浮竹の顔色を窺いながら、沙羅はたどたどしく言葉を紡ぐ。


「その気持ちはわからなくもないが、それで傷だらけになって帰ってきたんじゃ意味がないだろう。
聞けば相当の深手を負ったそうじゃないか」


「あ、でも傷の具合は勇音さんに診てもらったのでもう――」


「そういう問題じゃない!」


くわっと声を荒げた浮竹に沙羅は慌てて首を引っ込めた。



自分の身を案じてのことだとわかってはいるが、こういうときの浮竹はめっぽう口うるさい。



「あ〜らら。大目玉だね」


そんな二人の様子を遠巻きに眺めながら清音が苦笑していると、浮竹の怒りの矛先はそちらにも向けられた。


「清音、おまえもおまえだ!
卯ノ花隊長から沙羅のことを聞いた時点でなぜすぐに俺に知らせなかったんだ」


「だって隊長、昨日は調子が芳しくないからって隊首室で寝込んでたじゃないですか。
せっかくお休みのところを起こすよりも、早く沙羅を助けに行ったほうがいいと思ったんです」


「それを決めるのは俺だ。
副隊長が危機に晒されているとあれば、まずは隊長に報告するべきだろう」


「でも卯ノ花隊長が『浮竹隊長の身体に障るといけないから報告は明日になさい』って言ってくれたんですよ!責任は自分が持つからって!」



懸命に言い繕う清音の言葉に、沙羅はふと昨日の卯ノ花との会話を思い出した。



現世のあの場にいたもう一人の存在に気づいていた彼女。


その存在を沙羅が隠そうとしているのを知りながら、それを咎めることなく見過ごしてくれた。



ひょっとして卯ノ花隊長は最初からこうなることを見越していて、事が大きくならないようにあえて浮竹への報告を遅らせたのだろうか。


あり得ないとは思いつつもあの博識な女性が相手ではそれも否定しきれず、沙羅はただ感謝の念を深めるばかりだった。






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