Dear…

□A Man Sank A Hollow
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「おまえ少し痩せたんじゃないのか?
ただでさえ細いのに、このままだと骨と皮だけになるぞ」



差し入れの食材をテーブルに置いて、萩谷は窓辺でぼんやりと外を眺めている紫苑を振り返る。


だがその瞳がまるで色を映していないのを見て取って、溜め息交じりに隣に腰を下ろした。



「紫苑……おまえの気持ちはよくわかる。
だがせめて飯だけは食え。このままじゃ本当に死んじまう」


「約束したんだ……」



不意に押し出された低い声に、萩谷は少し驚いた顔をして耳を傾けた。



「ずっと傍にいて……護ってやると。
だが間に合わなかった」


「紫苑……」


「俺が……もっと早く向かっていれば。
……いや、そもそもあいつを裏門に残らせなければよかったんだ。
俺のせいで沙羅は――」


「それは違う。おまえのせいなんかじゃない」


「そうですよ。紫苑さんは悪くない!
悪いのは全部あいつです――」



萩谷に続いて声を上げたのは、第三部隊の若手の隊員だった。


彼もあの日、沙羅と共に裏門に残された部隊の一員だ。



「……あいつ?」


虚ろな瞳を向けた紫苑に、若い隊員は悔しそうに唇を噛んで頷いた。


「杉原司令官ですよ……
あいつが自分の手柄の為に無茶な奇襲をかけようとさえしなければ、あんなことにはならなかったのに……!」


「確かに杉原の采配は軽率だったが、あの時点ではまだ反乱軍の狙いが裏門だと判断するのは難しかった。
……一概に奴を責めることはできないさ」


力なく首を振る萩谷に、隊員は「でも!」と声を上げる。


「斥候部隊が反乱軍の兵数が急増したのを報告したとき、沙羅は真っ先に気づいたんですよ?
正門は陽動なんじゃないかって!」


「……何だって?」


「それですぐに引き返すように進言したのに、杉原司令官は耳も貸さなかった。
第三部隊の指揮官ごときが口出しするな、なんて偉そうに言って――
沙羅が囮になって残ったのだって、司令官であるあいつを先に逃がす為だったんですよ?
全部……全部あいつのせいで――」



ガタン……



若い隊員がそう告げたところで、それまでろくな身動き一つ取らなかった紫苑が唐突に立ち上がった。



「紫苑……?」


訝しげに声をかける萩谷には何も答えずに、紫苑は感情の読み取れない冷やかな翡翠の瞳を隊員に向ける。



「……今の話は本当か?」



背筋が凍るような冷たい声音に、隊員はぞっとしたものを感じながら頷いた。




その、瞬間。




ダン――っ!!




「紫苑!?」




紫苑は目を瞠る速さで部屋を飛び出していた。



――部屋の傍らに立てかけていた刀をしっかりと握り締めて。







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