Dear…

□Be with You
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ガッ……



それは一瞬の出来事だった。



声を荒げたウルキオラの左手が、突然自身の頭部の仮面を掴んだ。



「ウルキオラ……!?」


「こんな仮面など邪魔なだけだ……!」



愕然とする沙羅の前で、ウルキオラは自身の仮面を引き剥がそうと力を籠める。



「俺が破面じゃなければ……虚にならなければ、またおまえと共に生きることができたのに――」



どれだけの圧力がかけられたのか、掴んだ部分にピシッと亀裂が走った。


それと同時にウルキオラの表情に苦渋の色が浮かぶ。



「やめて!」



咄嗟に掴みかかった腕はものすごい力で振り払われた。


だがそれにも構わず沙羅は懸命にウルキオラの腕にすがりついた。



「何してるの!やめてよ!」



そう叫ぶ間にも仮面の亀裂は深くなる一方で、ウルキオラの喉からは小さな呻き声が押し出される。



虚の仮面が容易く剥がせるものじゃないことくらい知っている。


何より、激痛に顔を歪ませるウルキオラを黙って見ていることなどできない。



「お願いやめてぇっ!」



今にも泣き出しそうな顔で懇願すれば、激情が続かなくなったのかウルキオラは脱力したように腕を下ろした。



そのままどさりと桜の根元に座り込む。



「……ならば……俺はどうすればいいんだ」


「何もしなくていい!
傍にいてくれるだけでいい……」



瞳を潤ませて告げる沙羅に、ウルキオラはふっと自嘲の笑みを漏らして首を振った。



「……俺はもう紫苑じゃない。おまえが愛した男とは違う」


「そんなことわかってる。それでも私はウルキオラと一緒にいたいの」


「それは俺に紫苑の面影を重ねているだけだ」


「違う!」


きっぱりと首を横に振った沙羅の眼差しに迷いはない。



確かに姿形は紫苑そのものだ。声だって変わらない。



でも、沙羅がこれまで追い求めてきたのは紫苑じゃない。



胸が引き裂かれそうに痛んで、傷ついても、それでも忘れられなかったのは。



「ここでずっと私の話を聞いてくれたのは誰?
何度も背中を押してくれたのは誰?
ガトーショコラを美味しいって食べてくれたのは、誰……?」


二人がいつも腰かけていたあの場所を見上げながら告げた沙羅は、そこまで言うと視線をウルキオラに戻し、泣き笑いのような顔で首を小さく傾けた。



「全部、全部ウルキオラでしょ……?」



今その瞳に映るのは「桐宮紫苑」ではなく



沙羅は確かに「ウルキオラ・シファー」を捉えていた。






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