Dear…
□Like Ordinary Lovers
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「現世任務――?」
その日、十三番隊の隊舎には素っ頓狂な声が響き渡っていた。
目を丸くしている自身の副官を前に、十三番隊隊長・浮竹十四郎は平然と続ける。
「ああ。明日から三日間、空座町南西部にて破面が出現した地域の重点調査を行ってほしい」
「空座町で……」
「出来れば誰かサポートにつけてやりたいんだが、生憎その間は遠方の任務に出払っている者が多くてな……今回は単独で行ってもらうことになる。
どうした?」
「え、あ、いえ!
あの……私でいいんですか?」
願ってもない申し出だとは思いつつも、沙羅は恐る恐る問いかけた。
浮竹から現世禁止令が下されたことは記憶に新しい。
その彼直々に現世任務へ就くようにとの命が下りるとは一体何事だろうか、と。
すると浮竹はあからさまにむすっとした表情を浮かべて口を開いた。
「俺とてしばらくはおまえを現世に行かせるつもりはなかったさ。
だが元柳斎先生から『先の十刃戦でも生還したことを踏まえれば、この任務に最も適格とされるのは草薙副隊長を於いて他にない。過保護も大概にしろ』とご意見を頂いてな……」
なんとも面白くなさそうにそう告げる浮竹があまりに幼く見えたものだから、沙羅はぽかんと呆気に取られた。
沙羅にとっては父にも似た存在の浮竹だが、その彼も元柳斎の前では一人の幼子に過ぎないのだろう。
「そう、なん、ですか……っ」
「……沙羅。今笑っただろう」
「え!いえ、まさか!」
必死に笑いを噛み殺しながら首を振ると、まだ不貞腐れている様子の浮竹はやれやれと吐息を洩らした。
「ここ最近おまえには特に苦労をかけ通しで、俺としても不本意なんだが……
元柳斎先生の仰る通り、他にこの任務を任せるだけの信頼に足る者がいなくてな。
悪いが頼まれてくれるか?」
「もちろんです。
それから隊長。そんなお気遣いは必要ありません。
副隊長がぐうたらしてたら他の隊士に示しがつかないじゃないですか」
カラリと笑ってみせた沙羅に吊られて浮竹も笑みを零す。
「……済まないな。俺は本当に良い副官に恵まれたよ」
「おだてても何も出ませんよ。
じゃあ今から準備を整えて夜明け前には出発しますね」
「ああ頼む。
くれぐれも無茶はするんじゃないぞ、危険を感じたらすぐに伝令神機で連絡するんだぞ」
最後まで釘を刺すことを忘れない上官に「この人の過保護は一生治らないだろうな」と思いつつ、沙羅は笑顔で頷いた。
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