Dear…

□Walk in the Past
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その日は雲一つない快晴だった。




「ウルキオラ、見て見て!」



スカイブルーの絵の具を天いっぱいに溶かしたような空を眩しそうに見上げていたウルキオラは、その声で現実に引き戻された。


視線を向けた先では、空と同じ色のワンピースを風になびかせた沙羅が何やら顔を輝かせて店のショーウィンドウにへばりついている。



「何だここは。家畜屋か?」


「間違ってはいないけどせめてペットショップって言ってよ」


隣に並んだウルキオラに苦笑いの表情でそう言って、沙羅は再びガラスの向こうに目線を戻した。


大小様々なショーケースの中には、まだ足取りの覚束ない子犬や真ん丸の大きな眼の子猫が元気な鳴き声を上げている。



「可愛いね。わあ、こっちの子はまだ目が開いたばかりみたい。
――あっ見て!あの奥の子猫、ウルキオラにそっくり!」


「……どこがそっくりだって?」


「ほら、綺麗な翠色の目してるじゃない。
しかも……ふふっ、あの横顔!
絶対に私たちのこと気になってるのに、わざと見ないようにしてるみたい。
誰かさんそっくりじゃない?」


「…………悪かったな」


ウルキオラがむすっと横を向いてそう呟くと、沙羅は「それ、その顔!」と指さしてけらけらと笑った。



その様子があまりに楽しそうなものだから中に入るか訊ねれば、沙羅は少し考えた後首を横に振った。



「ううん、いい。
触ったらきっと連れて帰りたくなっちゃうもの」


欲しいなら買ってやる、と言ってやりたいところだが生物相手ではそうもいかない。


言葉の代わりにウルキオラがぽんと頭の上に手を置くと、沙羅は目線を上げて「行こっか」と笑った。




もしも二人が現世で暮らす普通の恋人同士であったなら、それはごく日常的な光景のはず。


事実楽しそうに語らいながら歩くその男女の姿は、行き交う買い物客で賑わう街並みの中に驚くほど自然に溶け込んでいた。




本当は、過ぎていく時間の一秒一秒が、すがりついてでも引き留めたいほどに惜しい。



この緩やかに流れる時間が限られた幸福であることを二人は知っていた。



だからこそ、一瞬たりとも無駄にすることのないよう、瞳に映る景色の全てをくっきりと目に焼き付ける。


交わす言葉の一言一言を、何度も頭の中で反芻しては、焼きつけられた映像と共に記憶の上に重ねていく。



この夢の時間が終わりを告げても、いつでも脳裏に鮮明に呼び起こせるように。




口にこそ出さなくとも二人の想いは一つだった。






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