Dear…

□The Only in My Eyes
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剣術道場を出た後も、二人は飽くことなく空座町を歩き続けた。



時折ショーウィンドウにへばりつく沙羅をウルキオラはやれやれといった様子で眺めながらも、その眼差しは優しい。



ひとたび店内に入れば気に入った洋服をあれもこれもと姿鏡で合わせていた沙羅は、途中ぱっと振り返ると乗り気でないウルキオラにも無理やり服を見立てたりした。


中でも細身の黒いジャケットを試着した際には、店員も手放しで褒めちぎるほどよく似合っていた為、すっかり購入意欲満々の沙羅をウルキオラは全力で阻止する羽目になったのだが。



その後も雑貨屋に立ち寄ったり、カフェで軽く食事を採ったり。


何気ない会話を交わすその姿は、今日二人が何度も町ですれ違った『ありふれた恋人たち』と何ら変わりないものだった。



だが、そんな夢のような時間を過ごしながらも、沙羅はずっと時計から目を離すことが出来ないでいた。


そして次第に西に傾き始める太陽に、その胸の内には焦燥が芽生え始めていた。



「…………」



正面から夕日を受けるウルキオラの横顔をちらりと盗み見る。



仮面も仮面紋もないその横顔は、まさに沙羅の記憶の中の桐宮紫苑のもの。


けれど今こうして何の違和感もなく現世に溶け込んでいる二人は、別れの時がくれば『破面と死神』という敵対する立場に戻らなければならない。



こんなに近くにいるのに。


触れる指先の温もりだって、零れる微笑みの優しさだって、何も変わらないのに。



ただ立場が変わるだけで、どうしようもない隔たりを感じてしまう。




「沙羅?」



いつの間にか足が止まっていたらしく、数歩先に進んだウルキオラが訝しげに振り返っていた。



「どうした」


「ううん、何でも――「それが何でもないという顔か?」



張り付けの笑みを浮かべるよりも早く紡がれた台詞に、返す言葉を失う。


為す術もなく俯くと、ウルキオラが小さく吐息を洩らしてこちらへ踏み出したのがわかった。




……待って。


何も言わないで。



まだ帰りたくない。


もう少しこのままでいたいの。




「沙羅」



すぐ頭上で呼ばれた名前にも応えられないでいると、頬に手が添えられ半ば強引に上を向かされた。



夕日の眩しさに目がくらみ、視界が一瞬だけ色を失う。


それと同時に降ってきたのは優しい声。




「なんて顔をしているんだ」



見上げたウルキオラは、困ったような呆れたような、そんな表情を浮かべていた。






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