Dear…

□.
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カーテンの隙間から射し込む月明かりが、夜闇に包まれる室内を朧げに照らし出す。



腕の中ですうすうと眠りに落ちている沙羅の髪を、ウルキオラは壊れ物に触れるような手つきで撫でていた。



――なんだかんだ言って疲弊していたのはおまえの方じゃないか。


すっかり熟睡してしまっている沙羅を見て、あれだけはしゃげば無理もないかと口元を緩める。



とはいえ、沙羅にここまで無理をさせたのが自分だという自覚がないわけじゃない。


明日も通常通りの勤務があると知っていたにも関わらず、結局朝まで繋ぎ止めてしまった。



だが――



「あんな顔をしたおまえが悪いんだ……」



言い訳をするようにそう呟きながら、沙羅の前髪をそっとかき分けた。


今は閉じられている濃紫色の瞳が、夕日を浴びて哀しげに光っていたときの様子を思い出す。



『――帰りたくない……』



俺の服の裾を掴んで、今にも泣き出しそうな顔で見上げて。


あれで平静を保てる方がどうかしている。



それまで俺がどれだけ苦労して自制していたかわかっているのか?


やっとのことで抑え込んでいたものを、たった一言でああも容易く突き崩すなんて。




「……おまえが悪い」



もう一度、同じ言葉を繰り返して頬に口付けを落とす。



今だって、このまま世界の果てまで連れ去ってやろうかと思うほど愛しくて堪らないのに、我慢してやっているんだ。


むしろこの忍耐力に感謝してほしい。



「ん……」


無意識のうちに腕の力を強めたのが伝わったのか、沙羅が小さく身じろぎした。



目を覚ましてくれたらという期待と、明日に備えてこのまま眠っていてほしいという願いはちょうど半々。


じっと息を潜めて見つめていると、沙羅は温もりを求めるように身体の向きを変えて、額をウルキオラの胸に寄せたところで動きを止めた。


安堵したように再び穏やかな寝息を紡ぎ始める。



その途端、ほっと息を漏らすと同時に微かな落胆も湧き上がって、ウルキオラは内心で苦笑した。



沙羅を前にしては、俺も一人の男でしかないのだと。


死神だろうと、破面だろうと、何も関係ないのだと思い知らされて。



「おまえはどこまで俺の心を奪えば気が済む?」



他の誰にも聞かせないような優しい声音でそう囁いて、ウルキオラは沙羅の首筋に口付けた。


わざと強く吸い上げたのはささやかな仕返し。


こうして触れているだけでこんなにも心が揺さぶられるというのに、当の本人はそれを知る由もなくすやすやと心地良さそうに眠っているのだから。



唇を離すとうっすらと赤い痕が残っていて、特別目立つわけではないものの、注視すれば目に留まらないこともない。


明日もしも沙羅がこれを誰かに気づかれたとして、それはそれで悪くないなとウルキオラは思った。



俺を差し置いて眠りに落ちた罰だ――沙羅。



意地の悪い微笑みの中に、溢れんばかりの愛情を籠めて。


未だ深い夢の世界に迷い込んだままの沙羅をそっと抱き締める。




「……まだ明けてくれるなよ」



窓の外で青白く輝いている月に目を細めて、願う。



世界の全てを明るみに照らす太陽が現れたらもう逃げ場はない。



だがそれまでは。


この淡い月光のカーテンが、身を包む盾となり俺たちを隠してくれている間は。




この温もりは離さない。



おまえを誰の目にも触れさせない。




最後にもう一度沙羅をしっかりと腕の中に抱き込んで、ウルキオラは静かに瞼を伏せた。



この幸せに満ちた月夜が一秒でも長く続くようにと願いながら。








I defend you with the Moonshield.



(今宵、月の盾で君を護る)







≫第27話『Back to Usually
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