Dear…
□A Betrayer
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雛森との面会から数日後、沙羅は任務の合間を縫って五番隊の隊舎を訪れた。
多くの隊士が任務に出払っている昼間の時間帯だけあって、隊舎の中は人もまばら。
その中で沙羅の姿に気づいた若手の隊士が声をかけてきた。
「あれ、十三番隊の草薙副隊長ですよね?うちの隊に何か御用ですか?」
「忙しいところごめんなさい。桑島四席に少し伺いたいことがあって」
「桑島四席なら奥の事務室にいますよ。
この先の通路の突き当たりの部屋です」
「ありがとう」
隊士ににこりと頭を下げて、沙羅は真っ直ぐに奥の部屋を目指した。
間を置かずして辿り着いた事務室の前に立ち、ゆっくりと二回ノックをする。
すぐに「どうぞ」という男性の声が返ってきて、沙羅は小さく息を吸い込んでからドアノブを引いた。
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『桑島大悟――』
沙羅がぽそりと復唱したその名に、雛森は複雑な表情を浮かべたまま頷いた。
『うん……うちの四席を務めているんだけど、すごく優秀な人なの。
隊長のことを心の底から尊敬してて、あたしもよく桑島くんと藍染隊長の話で盛り上がったりしてたんだ』
そこまで言うと、雛森は言いにくそうに眉を歪めて続ける。
『藍染隊長にもすごく信頼されてて、よく任務にも一緒に連れて行ってもらってた。
隊長と一緒にいる時間は、桑島くんがあたしの次に長かったと思う……』
『そう……』
沙羅が僅かに瞳を細めたのを見て、雛森はすぐに「でも!」と顔を上げた。
『桑島くんは本当にしっかり者で優しい人なんだよ。
そんなことするような人じゃ――』
『わかってる、心配しないで。
疑いをかけに行くんじゃない、疑いを晴らしに行くんだから』
沙羅のその言葉に安心したのか、雛森は肩の力を抜いて微笑んだ。
そんな彼女に笑みを返しつつ、沙羅は静かにこの先の動向について思考を巡らせていた。
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