Dear…
□Blackout
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それから数日――場所は変わって、虚圏。
その日の任務を終えたウルキオラは自宮へと戻る足を速めていた。
今夜は二週間ぶりに現世で沙羅と会うことになっている。
例の内通者の一件で無茶をしてはいないかと案じていたが、どうやら上手く解決出来たらしい。
さしあたっての心配の種は消えたものの、早く会いたい気持ちに変わりはない。
一秒をも惜しむ想いはそのままウルキオラの歩く速度に直結していた。
そんな先を急ぐウルキオラの前に現れた、一体の影。
「あ、おったおった。
ちょう顔貸してくれへん?」
それはまるで人を食ったような口調の狐目の男。
他の破面であればそのまま素通りしていたであろうが、さすがに上官を無視するわけにもいかずウルキオラは歩みを止めた。
「……何でしょうか」
「いややなあ、そない怖い顔せんといて。
ボクは頼まれて君を呼びに来ただけなんやから」
「…………」
この男――市丸ギンが誰かの命を受けて動くことがあるとすれば、そこに当てはまる人物は只一人しかいなかった。
「藍染隊長がお呼びや」
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「ああ、来たねウルキオラ。
任務を終えたばかりなのにすまない。もう休むところだったかな?」
「いえ」
表情ひとつ変えずに答えたウルキオラに、玉座に腰かけた藍染は薄く微笑んだ。
「実は君に少し相談したいことがあってね……
以前私が瀞霊廷の内部に手駒を置いているという話をしたのを憶えているかい?」
「はい」
ウルキオラが頷くのを確認してから藍染は続ける。
「ならば君もわかっているだろうが、最近現世で頻繁に死神共に奇襲をかけていたのは、全てその駒から情報を得ていたからなんだ」
ウルキオラは黙って主を見上げていた。
ただ彼の言葉に耳を傾ける。
「ところが、どうやらそれは潰されてしまったらしい。
まだしばらくは使えるだろうと思っていたんだが、こんなに早く捕まるとは意外でね。
よほど頭の働く者がいるのか、それとも――こちらの事情に精通している者がいるのか……」
そこで一旦言葉を区切った藍染は、まるでいつも通りの微笑みを湛えて玉座から部下を見下ろした。
「何か思い当たる節はないか?ウルキオラ」
その微笑みとは対照的に、背筋も凍るような冷たい視線がウルキオラを見据えていた。
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