Dear…

□Into the Dark
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空にぽつんと浮かぶ三日月が夜の公園を朧げに照らし出す。


青白いその月光を浴びながら、沙羅はいつもの桜の下に腰を下ろして待ち合わせの相手を待っていた。



「……っくしゅ!」


不意にぶるりと震えが走って、身を縮めるように膝を抱える。


季節は次第に初夏へと移り変わる準備を始めているものの、夜はまだ少し肌寒い。


これだけの長時間外にいれば冷えるのも無理はないと思う一方で、沙羅はこの震えが単に寒さからきているものだとは思えずにいた。



約束の時間はとうに過ぎている。


ウルキオラは、まだ来ない。



元々全くの異なる世界に身を置く相手だ、必ずしも時間通りに会えるとは限らないということは沙羅とて重々承知している。


それでも、今日はあまりに遅すぎる。


否、何よりも。


あまりに――胸がざわつきすぎる。



半分無意識に胸元のネックレスを握った。


沙羅の手の中に収まった翡翠の石は、彼女の身体同様にすっかり冷えきっている。


それが無性に寂しくて、必死に掌から温もりを送った。



……さっきからずっと感じているこの感覚は一体何?


悪寒、恐怖――そんな生温い言葉で表現出来るようなものじゃない。


それは……例えるなら――



得体の知れない何かがじわりじわりと忍び寄る感覚に、沙羅は首を振って意識を正した。



こんなわけのわからないことで不安になるなんて、私らしくない。


大丈夫。きっともうすぐ来る。


ウルキオラは約束を破ったりしない。



そう言い聞かせても身体の震えは治まらず、手の中で強く握り締めたネックレスに祈りを籠める。



お願いウルキオラ。


「早く、来て……」




その直後だった。


突如辺りの空気が震えるのと同時に、沙羅の背後でズズズ……と音を立てて空間が上下に裂けた。



それはまさにウルキオラがいつも虚圏から現世に現れるときに開く黒腔だった。






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