Dear…
□Lost
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意識を取り戻した直後、真っ先に視界に映った色は白だった。
「ウル――!」
掠れた声で叫んで、伸ばした右手が空を切ったところで気づく。
視界に広がるのは白い天井。
そこに独特の薬品臭さも加わって、すぐにここが救護詰所の一室であると理解した。
ゆっくりと身体を起こしながら、沙羅は左肩に走った鈍痛に顔を歪める。
すでに治療が施されたのであろう傷口は痕こそ綺麗に消えていたものの、無理に筋肉組織を修復した反動により内側にはまだ痛みが残った。
肩を押さえる手が震える。
痛みと共に研ぎ澄まされる思考が、この傷を負わせた男の姿を鮮明に思い起こさせる。
忘却するにはあまりにも近すぎる記憶。
忘れることなど赦されない。
『おまえが草薙沙羅か』
『俺はおまえのことなど知らん』
白光を放つ三日月の下、異物を見るような冷たい瞳が沙羅を見下ろしていた。
『精々死なないよう気をつけるんだな』
おまえの為に生きたい――そう言ってくれたはずの彼が、その剣先を沙羅に向けた。
『腕の一本でも斬り落とせば大人しくなるだろう』
一切の感情が失われた眼差しで何の躊躇いもなく沙羅を斬り捨て、首を締め上げて。
そしてその鋭い刃をまさに沙羅の肩口に沈ませんとしていたそのときになって、ようやく彼は正気に戻ったのだ。
『沙羅……?』
今しがた己の身に起こっていたことがまるで信じられないといった様子で、不安げに沙羅を見つめて。
けれどその視線が沙羅の左肩に刻まれた刀傷に留まったとき、ウルキオラの表情は一変した。
『俺が斬ったのか……?』
『俺が、おまえを?』
血に濡れた己の右手を目の当たりにしたウルキオラの瞳が、みるみる狂気に呑み込まれていく。
傍に寄った沙羅を突き飛ばした彼は、倒れ込んだ沙羅に一瞬だけ哀しそうに顔を歪めた。
『やめろ……俺は二度と沙羅を……』
それは誰に向けての言葉だったのか。
その台詞を最後にウルキオラは頭を抱えて絶叫し、そして理性を失った。
沙羅の前には血に飢えた虚が一体、殺意を込めた目でこちらを見つめているだけだった。
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