Dear…
□Only Wishing
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虚夜宮の最奥にあるその一室は、絶えず冷やかな静寂に包まれていた。
コツ、コツと足音を響かせて廊下を歩んできた彼は、その部屋の前で足を止めると、重厚な扉と真っ直ぐに向き合って声を上げる。
「ウルキオラ、入ります」
押し開いた扉の奥では、玉座に腰かけた主が頬杖をついて彼を見下ろしていた。
「お帰り、ウルキオラ。
一人で戻ってきたところを見ると任務は果たせなかったのかな?」
「申し訳ありません。
途中で思わぬ邪魔が入り、草薙沙羅の捕獲に失敗しました」
「邪魔?」
ウルキオラのその報告に、藍染は片眉を上げて先を促す。
「はい。隊長羽織を身に付けた白髪の男と、金髪の女です。
草薙沙羅を援護しに来た様子でした」
「浮竹と――ああ、松本くんか。
彼らが来たのなら無理もない。
特に浮竹は相当腕が立つからね。まともにやり合わなくて正解だよ」
「申し訳ありませんでした。次は必ず――」
「いや、もういいよ。二度も行く必要はない」
さらりと言い放った藍染に、ウルキオラは僅かに目を見開いて顔を上げた。
第4十刃である彼に与えられる任務は総じて重要度の高いものが多い。こうも簡単に任を解かれるとは思わなかったのだろう。
「ですが」
「いいと言っているんだ」
「……了解しました」
ウルキオラの疑問は、藍染のその一言で黙殺される。
真意はどうあれ、主の意向こそが彼にとっての全てであり、そこに私情を挟む余地はなかった。
そうして言葉を呑み込んだウルキオラに、藍染は別の質問を投げかけた。
「ウルキオラ――君を前にして、草薙沙羅はどんな様子だった?」
「ご覧になりますか」
「いや、君の口から聞きたいんだ」
眼球に手を添えるウルキオラに首を振った藍染は、薄い微笑みを湛えてそう告げる。
その真意はやはり掴めなかったが、主が望むならとウルキオラは己が感じたままを口にした。
「相当取り乱しているようでした。
俺のことを知っているかのような態度を取ったり、意味のわからない言葉を発したり……錯乱状態に陥っていたのかと。
その後もこちらの意向に従う様子が見受けられなかったので、強制的に連行しようと試みましたが――」
そこで一旦言葉を切ったウルキオラは、表情を変えないままに続けた。
「あの死神は泣いていました」
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