過去拍手
□特別な言葉
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「そういえばカカシはまだ一度も言ってくれないね」
「…………」
そう、それだ。
そりゃ俺だって言いたい。
誰よりも大きな声で「おめでとう」って言ってやりたいよ。
でもさ、みんなと同じ台詞なんて格好つかないでしょ?
なんつーか、やっぱ彼氏としては特別な言葉を贈ってやりたいわけよ。
ボソボソとそう告げたら彼女は笑った。
思いっきり笑って、最後にこう付け加えた。
「バカ」
……そんなにはっきり言うことないでしょーよ。
どうせ俺はバカですよ。恋人の誕生日に気の効いた台詞の一つも浮かばないバカ野郎ですよ。
むすっと仏頂面を浮かべた俺に彼女はますますおかしそうに笑って。
「違うよ。言葉なんて何でもいいんだよ」
俺の目を真っ直ぐに捉えて、小さく小首を傾げる。
「言葉は何のためにあるの?気持ちを伝えるためにあるんでしょう?」
「大切なのは、そこに込められた気持ち。
私が嬉しいと思うのも、みんなが『おめでとう』って思ってくれるその気持ち」
もちろんお祝いの言葉もプレゼントも嬉しいけどね、と両手の荷物を抱え直して笑う彼女に返す言葉もない。
なぜなら全くもってその通りだ、と納得してしまったから。
……なんか俺。すっげーガキみたいじゃないのヨ。
『俺は恋人なんだから、みんなとは違う特別な言葉を贈ってやらなきゃ』なんて、つまらない意地を張って。
一番大切なことを忘れてしまっていた。
それは『気持ち』
俺が彼女を想うその『気持ち』
それこそが、彼女が喜ぶ一番の贈り物だったんだ。
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