過去拍手

□三周年メドレー
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◇グリムジョー◇



「グリムジョーのバカ!」



ぱちん。


虚夜宮の廊下で鈍い音が木霊した。



今日は7月8日。


私とグリムジョーが付き合い始めてちょうど3年の節目となる大切な日。



その記念日に、


この男は、


あろうことか約束の時間から3時間もの遅刻をかました。



彼の身に何か起きたのでは、と心配する私の前に現れたのは平時そのもののグリムジョーで。


安堵の余り涙目になって理由を開けば「寝坊した」などと耳を疑う返事が返ってきた。


そりゃあ手も出るってもんだ。




「……悪かったよ」


「知らない!」



互いに周りに無理を言って取った休暇だった。


ましてや彼は十刃。一日一緒にいられることなんて滅多にない。


だからこそ今日という日を心から楽しみにしていたのに。



「許してくれとは言わねえよ。
……ただこれだけは受け取ってくれ」


そう言ってグリムジョーが突き出したのは、ちょうど手の平に収まるくらいの小箱だった。



「…………え?」


「やるっつってんだよ」


半ば押し付けるようにして手渡された小箱。


これはもしや、俗に言う『プレゼント』というものでは?


自慢じゃないけどこの3年間、グリムジョーからプレゼントをもらったことなんてただの一度もなかったのに。



「……開けていい?」


「ここでかよ!?」


「だって気になるもの。駄目?」


上目遣いに見上げれば、グリムジョーは視線を逸らして「好きにしろ」と洩らした。



色鮮やかなリボンで施された装飾を、一つずつ丁寧に解いていく。


子供のようにドキドキと胸を高鳴らせながら開いた小箱の中では、小さな宝石が埋め込まれた銀色のリングがまばゆい輝きを放っていた。



「…………」



声が出ない。


出し方を忘れるくらい、驚いた。


リングとグリムジョーとを交互に見遣ると、その視線に耐えかねた彼が先に声を上げた。



「……何だよ」


「どうしたの、これ」


「現世で買ったんだよ」



確かに、小箱に印字されているのは現世にある私が好きなブランドのロゴだ。


でもそれじゃあ、グリムジョーはこの指輪を買いに行ったってこと?


現世にあるそのブランドの店まで足を運んで?



しばし唖然と指輪を見つめていたら、小箱の底に張り付いていたのか、ひらりと一枚の紙切れが舞い落ちた。



「何これ――
……レシート?」


「え!?おいバカ、見んなっ!」


グリムジョーが即座に引ったくったせいで金額までは見えなかった。……けど。


それよりも目を引いたのは、レシートに表示されていたその日付。



『2008−07−08』



「……今日買ってきたの?現世まで行って?」


レシートを破り捨てたグリムジョーは「あーくそっ!」と頭を掻いて。


「どうしようもなかったんだよ!
昨日までには用意しておくつもりだったのに、立て続けに任務が入って――」



ここ最近の彼が任務でずっと働き通しだったのは誰より知っている。


それが今日のこの休暇を取るための努力だったということも。


私用で現世に行く時間なんて、どう頑張っても作れっこない。



「……でもぜってー今日渡したかったんだ。おまえとの記念日だから」


そう告げたグリムジョーの表情に疲れが浮かんでいることに初めて気がついた。



昨日だって任務で帰りが遅かったのは知っている。


どうせろくに休みもしないで現世まで行ってきたんでしょう?


そんな状態でこの指輪を買ってきた恋人を思うと目頭が熱くなった。




「ホントに……バカなんだから……」


「悪かったな」


ぎゅ、と厚い胸板に身体を寄せて、いまだ赤みの残る頬に手を当てた。



「……どうしてよけなかったの」


「おまえを待たせた詫びだ」


「そんなのお詫びになんてならないよ」


「わーってるよ。
だからこれから一生かけて幸せにする、んでいいだろ?」


そう言ってグリムジョーは小箱から取り出した指輪を私の左手の薬指にはめた。


キラキラと透明な輝きを放つ、誓いのリング。



「ピッタリだな」


「……どうしてサイズわかったの?」


「わかるに決まってんだろ。いつも握ってんだから」


得意げに笑ったグリムジョーがどうしようもなく愛しくて、抱きついた。



「……ありがとな、3年間」


「……うん」


「んで、これからもずっと傍にいろ」


「……うん!」




笑顔と涙にまみれた7月8日。



二人が交わしたのはきっと、永遠に破られることのない約束。





Thank you!
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